バンクーバー警察博物館とは
北米にいくつかある警察博物館ですが、バンクーバーのものは最も歴史のある警察博物館といわれています。正式名称は「The Vancouver Police Museum & Archives」で、その歴史ある建物は、バンクーバー市による「市営指定遺産」に指定されています。
バンクーバー警察署(VPD)の100周年となる1986年に開館され、バンクーバーで訪れたい博物館のベスト10にランクインしています。
施設自体は1932年に建設、1935年に労働争議から発展した暴動の「バランタイン埠頭の戦い」の際には、多数の発生した負傷者を収容する病院として機能しました。
1980年までは検死官法廷として機能し、事件性の疑われる遺体の安置、検視から司法解剖までを行う施設として使用されました。以降は、1996年まで市営の分析・研究所として活躍しました。
所在地とアクセス
イースト・ダウンタウン地区にあります。
やや治安の悪い地域で、明るいうちはビジネスマンの往来もかなりありますが、目つきのちょっと変わった人たちも多くいます。。
ダウンタウン東地区に設置された北米で初めての市営薬物注射施設の利用者は、1日で600~700人と言われており、施設周辺には薬物中毒者やアルコール中毒者、ホームレスが多く集まっています。ガスタウン地区と中国人街の中間にあるイースト・ヘイスティングス通り沿いに位置(メイン通りと交差する付近)する同施設周辺にはできるだけ近づかないようにしてください。
在バンクーバー日本国総領事館「安全の手引き」平成31年1月15日
バンクーバーの「現実」を見ることになるエリアですので、綺麗なイメージを思い出にしたい観光客の方など、もしかしたらこの辺には足を運ばない方がいいかもしれません。。
車の利用
施設専用の駐車場はないため、周囲の路上パーキングを利用しましたが、平日でも結構いっぱいになります。1周見回って、空いてるところを見つけて停めました。最大の2時間分で2ドルをチャージ。
治安があまり良い地域ではないので、警察官も巡回を強化してくれていますが、貴重品の放置には特に注意します。また、この地域は一方通行の通りも多いので、自分が捕まらない様に気を付けましょう。
公共交通機関の利用
近くにバス停はいくつかあるので、バスの利用が便利です。
スカイトレイン(電車)のみを使用する場合は、最寄り駅がエキスポ・ラインのチャイナ・タウン駅で、徒歩で15分程度、先ほどの注意するエリアを通過してくることになりますので、より近くまで来れるバス利用をオススメします。
外観
レンガ造りの古い建物が並ぶ地域の中にあり、交差点から2軒目の建物が警察博物館です。
かつて、検視から司法解剖までを行う検死官法廷として使用されていたことが分かる外観です。日本では、検視や解剖は事件現場近くの大学病院などで行われるようなので、このような専門の施設があるのは欧米の特色で、日本でこれに該当する施設はありません。
入場まで
木製のドアを開け、階段を登っていきます。
階段の踊り場も、ちょっとした展示スペースになっています。
階段を2.5階分登ると、受付と展示のあるフロアに到着します。
受付ではお姉さんが笑顔で迎えてくれます。
大人1人12ドル。カードも利用可能でした。
65歳以上の方と学生(要学生証提示)は$10、6歳から18歳は$8(5歳以下は無料)、大人2人子ども2人の家族は$30です。
建物の中は、ややひんやりとしています。
僕はこういうところに来ると上着を車内において薄着で行動したい派なんですが、今回は一枚着るものを持ってきておいてよかったという感じです。
展示内容
受付で観覧料を支払ったら、中に入って見学していきます。
バンクーバー警察の業務内容や歴史
まず最初に目にするコーナーは、交通安全に関する警察の歴史の展示区画です。暴徒への対処や交通違反への対応などの歴史に触れることが出来ます。
騎馬隊は、カナダの警察が「RCMP」と言われる所以です。
RCMPはRoyal Canadian Mounted Policeの略で、日本語では「王立カナダ騎馬警察」と訳されます。
この区画の全体の雰囲気です。
警察のバイク車両です。二輪の警察車両は、現在では30数台が残るのみになっているようです。
部屋に入って一番奥の壁にあるのに一番目立つこの服は、カナダの警察官が着用していた安全ジャケットで、レインコートにもなり保温効果も高いものです。自然界に存在しないこの色の発明は、道路で現場作業を行う警察官を車両の衝突などから守ってきました。
1920年代に信号機が設置され始めましたが、馬車が行き交うそれまでの時代には、巡査が交差点の中心に入って交通整理を行っていました。
それでも当初の信号機は、人力でSTOP⇔GOの切り替えを行っていたとか。
自動車の登録に関する歴史です。当時は日本と同じく車両自体の番号として登録されていたため、車両を譲渡後も同じナンバーの使用をしていたとのこと。現在のナンバープレートは個人に紐づく番号です。
1910年代には、それまで犯罪の温床と考えられていたアルコールを禁ずる市民運動が活発化し、アメリカに同じく、カナダでも禁酒法が制定されます。これにより目に見えて犯罪は減少したため、市民は警察権力はもはや不要と考え始めたとのことですが、そんなときに新たな街の危険として対策が求められ始めたのが、交通事故です。当時の警察署長は、自動車の急激な普及と庶民化に伴う状況から、警察の役割を交通安全にシフトし始め、バイクの導入を進めました。
自動車の普及に伴い、自動車を使った犯罪も増加します。
中でも、銀行強盗や自動車の窃盗事件が多発しました。速度超過や信号無視などの交通違反も看過できない状態になり、免許制度が始まっていきます。
1886年に起きたバンクーバー大火災後、街は碁盤目状に区画整理されます。安全で効率的な交通を実現するための鍵になったのが、市内での駐車に関する問題でした。
馬車から自動車の時代に移行した当初は、駐車禁止場所を決めたり、この対処の担当を警察が行うことが定められたにすぎませんでしたが、1930年代になり自動車が普及すると、駐車場に関する問題が顕在化します。1935年にオクラホマ出身の新聞記者により発明された「コインパーキング」のシステムは、当時は5セントを入れるタイプでしたが徐々に普及をしていきます。
警察車両に搭載される双方向無線機、車体ナンバーから登録者を割り出す照会端末、速度測定レーダーなど、交通違反や犯罪と警察の戦いの歴史を物語る装備品です。
1920年代に自動車が普及すると飲酒運転がすぐに問題化します。1921年に禁酒法が崩壊したことと、運転時の飲酒は特に禁じられていなかったことから、当時は多くのドライバーが酒に酔っていたと言われ、発生した事故の半分は飲酒に起因しました。
すぐに飲酒運転が制限されますが、当時の巡回警察官にとって、ドライバーの血中アルコール濃度(BAC)を測定することは容易なものではありませんでした。
そこで、1927年ロスの医師が発見した呼気による測定法は、改良されたアルコール検知器(Drunkometer)の発明とともに交通安全に絶大な効果を発揮します。
呼気検査器は1970年代に電子化されたものが普及し、素早く測定ができるようになりました。
現在では片手サイズです。
拘置所
もう少し奥に進んで行くと拘置所の独居房が見えてきます。
刑法又は移民法に違反した者、逮捕令状が発行された者、各種違反をした者が最大24時間収監されます。拘置所は州立裁判所内に設置されていて、バンクーバー警察の3名の警察官と36人の拘置所警備員が監視を行います。
成人に対する収監の仕組みです。
少年犯罪
バンクーバーにおける少年犯罪の歴史です。
少年ギャングが流行っていた時代を終え、現在では犯罪数自体は減少傾向で、検挙内容もネットワークを使った少年犯罪などにシフトしているようです。
モラルオブザストーリー
The Moral of the Storyのコーナーでは、2つの事件に焦点を当てて紹介されています。一つが、「警察署長ウォルター・ムリガンによる汚職事件」、もう一つが「ペントハウス・ナイトクラブ事件」です。
ムリガンは1947年に43歳という若さで最年少で警察署長に指名されました。当時バンクーバーでは、治安維持のため、ギャンブルと酒については厳しい規制を敷いていました。しかし、こうした捜査の一部を賄賂を受け取って見逃すような汚職が、警察署長の命令で横行していました。
これを問題視した記者により事件が明るみに出て、警察署長自らによる汚職事件として世間を震撼させました。事件発覚後には、関与した刑事が自殺未遂を起こす事件も発生し、当時のバンクーバーはまさに混乱状態となりました。
もうひとつは、1947年に開業したペントハウス・ナイトクラブに関する一連の事件です。
当時酒の販売許可を取得することはほぼ不可能と言われるほど困難で、このペントハウスは違法に酒を提供する店として営業していました。警察の捜査も非常に厳しかったため、屋上に見張りを立たせて対処しており、警察の車両を見つけるとブザーを鳴らして酒のボトルを隠すようにしていました。1960年代から1970年代初めには、違法な売春斡旋に使用され、1975年に警察の一斉捜査により摘発されるまでその営業は続きました。1983年にはオーナーが強盗に襲われ殺害される事件も発生しましたが、現在もその子孫が経営を継続しています。
科学捜査
指紋や足跡の分析から、心理的なプロファイルまで、警察がどのように事件捜査を科学的に行っていくのかを体験する形式で展示したコーナーです。
事件と地理的な特性を紐づけて事件の特色を洗い出すマッピングの技術や、犯罪者の行動心理に基づく捜査の、方法などが紹介されています。
薄暗くなっている先には遺体安置所が続きます。。
遺体安置所と殺人事件の歴史と解剖室
スタンレーパークで2人の子どもの遺体が発見された未解決事件や、除草剤が混入された「ミルクシェーキ殺人事件」など、科学捜査に基づき捜査が行われた事件について当時の証拠物件や遺品、遺骨、凶器などが生々しく展示されています。
こちらは実際に使用されていた遺体安置室。
家族連れのお父さんが子どもに見せたいとスタッフにお願いして開けてもらっていたので、僕も便乗して見せてもらいました。中は区画化されておらず、ローラースライド式の架台が入っており、冷蔵庫らしくひんやりしています。
解剖室で、ステンレスの解剖台が2台設置されています。解剖用の工具が展示されています。
壁面には、ホルマリン漬けされた解剖遺体の一部が展示されます。銃創や刺創など事件性のあるものの展示があるのは警察施設らしいところです。
殉職隊員の慰霊
殉職した16名の警察官と8匹の警察犬を紹介しています。
コーナーの中は個人の紹介と記念品が展示されます。
銃器の展示
新設された企画展示で「カナダの銃の文化」と題されています。
個人的には何かを考えさせられる展示というよりは、単純にへ~という気楽に楽しめるコーナーだと思います。
オートピストル系
リボルバー系
マシンガン
トンプソン・マシンガン、通称トミーガンです。
45口径を連続で打ち出す割に機構が実に簡素で驚きます。
アメリカ製(1921~1945年) .45ACP 20発または50発マガジン
ライフル、ショットガン
テイザー銃
非殺傷兵器として近年活躍するテイザー銃です。近くで見るのは初めてです。発射される針のついた端子の先には、しっかりと「返し」が付いています。BC州では釣り針にすら付けられないのに。。(※BC州では、魚の生態保護のため、「返し」のついた釣り針の使用が禁じられています。)
打撃兵器、手榴弾など
日本の武器として手裏剣や鎖鎌が紹介されています。。
この並びで手裏剣や鎖鎌・・・何となく複雑な気持ちになります。。
こちらもなんか怪しいものも含まれています。。
武器として使われるイメージの強いマチェットの横に、鎌があります。
草を切る道具という点では同じですが、こちらも鎌とマチェットが同じジャンルとして展示されるのはなぜか少し違和感があります。。
手榴弾やフラッシュグレネードなどです。
クロスボウです。ハンティングが盛んなカナダでは、ショッピングモールなどにあるアウトドアスポーツショップでもこうしたものが店頭に普通に並んでいますので、あまり物珍しさは感じません。
まとめ
12ドルで約1時間半、ゆっくり楽しめました。
僕は開館とほぼ同時に入場しましたが、子ども2人を連れたお父さんと50代くらいの夫婦がいました。僕は特にしてませんが、お客さんもそこまで多くなさそうなので、質問すれば気軽に答えてくれそうな優しい雰囲気でした。
歴史について勉強になっただけでなく、日ごろから町の治安を維持してくれている警察官たちへの敬意が更に深まるきっかけになりました。
興味のある方は、是非一度足を運んでみてください。