カナダのパイロットが必ず取得する無線資格「ROC-A」を2時間でマスター!(緊急編)【日本語解説】

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こちらはパイロットの無線資格「ROC-A」の日本語解説ページ「後半編」です。
前半の通常編をまだご覧になっていない方は、下記のリンクよりお進みください。


遭難時の通信方法(Emergency Communications)

緊急事態について(Emergency Conditions)

航空通信では、緊急事態emergency condition危険深刻さdanger or hazardに応じて次のように分類する。

遭難(Distress)の定義

遭難Distress:早急な救助immediate assistance必要な、重大でgrave差し迫ったimminent危険に脅かされる状態

緊急(Urgency)の定義

緊急Urgency:早急な救助immediate assistance必要ないが、航空機やその他の車両または乗員に対し安全上の懸念があるconcerning the safety状態

遭難通信(Distress Communications)

遭難通信Distress communicationsこの章で定められた手順procedures outlined in this sectionで実施すること。
遭難状態にある局の注目の集中attract attention位置の把握known its position救助の支援obtain assistanceを妨げてはならない。

使用すべき周波数(Frequencies to be Used)

遭難機による最初の遭難通信は、その時の入系中のin use at the time管制機関に対して行う。通信設定できない場合は、航空遭難周波数aeronautical emergency frequency121.5MHzまたはその他の利用可能な周波数に対して繰り返して実施する。

遭難信号(Distress Signal)

無線通信radiotelephonyにおいて、遭難時に使用される用語は”MAYDAY”で、遭難通信の初頭にてat the commencement使用する。この遭難通信では、発信者自身が早急な救助immediate assistanceが必要な重大でgrave差し迫ったimminent危険な状態にあるのか、またはその他の航空機や船舶、その他の車両等がその状態にあるということを察知したawareのかを明示する。

遭難通信の優先度(Priority of Distress)

遭難通信は、その他の通信に対し絶対的な優先権absolute priorityがある。状況を聴知しているその他の全ての局は、遭難通信を妨げるおそれのあるcapable of interfering with distress全ての通信を速やかに中断immediately ceaseし、通信内容を引き続き確認continue to listen onすること。

遭難通信態勢の管制(Control of Distress Traffic)

遭難通信態勢の管制は、遭難機自身もしくはそれを中継する局責任を有する。中継局は、救助に効果的となる航空管制機関air traffic control(ATC)や捜索救難機関search and rescue(SAR)への中継の代行を行う。


遭難通信の呼び出し(Distress Call)

遭難通信は、遭難している局を識別し、局の代表者のみが行う。また次の内容を含むこと。

遭難通信における呼び出しの要領

1. 遭難符号“MAYDAY”を3回
2. “THIS IS
3. 遭難機のコールサインを3回

MAYDAY, MAYDAY, MAYDAY,
THIS IS PIPER FXCC, PIPER FXCC, PIPER FXCC.

遭難通信では、特定の局に宛てて応答を求める発信をすべきでない

上のような発信の仕方は、内容を伝えるのに時間を要しそうな場合に、「内容はさておき、とりあえず緊急事態にあったことを周囲に知らせる」という目的で行われるものです。これで遭難事態を周知できれば、周囲の航空機や管制機関が通信を中断してくれるといった協力を期待できますので、一定の効果はあるものと思います。
ただしこれで終わりではなく、この後にもう一度通信をして、下記の要領で詳細を全体宛に再度知らせる必要が生じます。

遭難通信のメッセージ(Distress Message)

遭難通信の内容の送信呼び出しに次いで、可能な限り速やかに行う。
メッセージ内容は、次の要素をこの順番にできる限り多く含めること。

遭難通信のメッセージ内容に含める内容と順序

1. 遭難符号“MAYDAY
2. 遭難機のコールサイン(1回)
3. 遭難の状態と必要な支援(つまり何が発生したか)
4. 機長の意図
5. 現在位置、速度、高度、針路
6. 搭乗人数と必要に応じ負傷者数
7. 救助に必要なその他の情報
8. 遭難機のコールサイン

MAYDAY,
PIPER FXQQ,
STRUCK BY LIGHTNING DITCHING AIRCRAFT
POSITION: 20 MILES EAST OF WINNIPEG
ALTITUDE: 1500 FEET
AIRSPEED: 125 KNOTS
HEADING: 270 DEGREES
ONE PERSON ON BOARD
PIPER FXQQ.

往々にして緊急時は、機内で対処すべきことが多く、対外通信に時間を割けない場合がほとんどです。できる限り、最初の「MAYDAY」の通信の際に一遍に情報を伝えられるように、この発信要領はよく訓練しておくべきものと考えています。
なお、呼び出し直後にすぐにメッセージの送信ができれば、上記の1と2の項目のようにもう一度MAYDAYをコールする必要は当然なくなります。

遭難通信の繰り返し(Repetition of a Distress Message)

遭難通信のメッセージ内容は、他の局が応答するのに十分な時間sufficiently long間隔intervalsを空けながら応答が得られる送信できなくなるfeasible to continueまで繰り返す。

まだ応答も救助も得られていない遭難通信を聴知した局は、救助に適した局in a position to assist注意が得られるattract the attentionような可能な手段を取るall possible steps。併せて、捜索救難機関search and rescue authoritiesに事態の発生を知らせるための必要な手段をall necessary steps取る。


遭難機の行動(Action by Station in Distress)

遭難機の機長は、下記の適切な対応appropriate actionを行う。

遭難機がとるべき行動

1. 遭難通信の呼び出しの送信
2. 遭難通信のメッセージ内容の送信
3. 応答の確認
4. 該当すれば遭難通信態勢に以降exchange further distress traffic
5. 必要に応じELTなどの自動緊急装置を発動activate automatic emergency equipment

遭難機以外の行動(Action by Stations Other than the Station in Distress)

遭難状態にない他の航空機は、下記の場合に遭難メッセージを送信する。

他の航空機が遭難メッセージを代わりに送信すべき条件

1. 遭難機がメッセージを送信できる状態にない場合
2. 遭難機でない航空機の機長が以降の支援が必要であるfurther help is necessaryと判断した場合
3. 救助が実施されていないのに、応答が得られていない遭難メッセージを聴知した場合

遭難メッセージを受信したが、当該機が十分近い距離にないnot in the immediate vicinityと判明した場合、了解acknowledgedはすぐに行わなくてもよく、この場合は遭難機により近い局が応答をすべきである。

遭難通信を傍受した場合の行動(Action by Other Stations Hearing a Distress Message)

遭難通信を傍受した場合の行動

1. 遭難通信を聴知した周波数を継続してモニターし、可能なら他の遭難周波数も確認する
2. 未実施のようであれば、方位捜索やレーダーをもつ機関に知らせ援助を要請する
3. 遭難通信に支障となり得るその他の全ての通信を中止する

遭難通信態勢(Distress Traffic)

遭難通信態勢は、遭難機により要請される早急な援助に関連し、最初の遭難通信の呼び出し以降に行われたすべての通信を指し、遭難符号である”MAYDAY”がコールされると開始される。この通信方法は、最初の遭難通信の呼び出しを認識していない局に対して注意喚起し、遭難通信の行われている周波数に注意を向けることを目的として行われる。

遭難通信態勢にあることを認識しながら自身が救助を行うことができない全ての航空機は、救助が実施されるのを確認するevidentまでは、遭難通信態勢に従うfollow such trafficこと。

遭難機の存在を認識しているが参加せず聴守のみ実施している全ての航空機は、通常の通信態勢normal working trafficに復帰するか遭難の取り止めの通信があるまでは、遭難通信で使用される当該周波数での通信の発信は禁止。


遭難通信の了解要領(Acknowledgment of Receipt of a Distress Message)

遭難通信を受信をして内容を了解した旨を伝える要領は以下のとおり。

遭難通信の了解要領

1. 遭難符号 “MAYDAY
2. 遭難機のコールサイン (3回)
3. “THIS IS
4. 了解した局のコールサイン (3回)
5. “RECEIVED MAYDAY

MAYDAY,
PIPER FXQQ, PIPER FXQQ, PIPER FXQQ,
THIS IS WINNIPEG TOWER, WINNIPEG TOWER, WINNIPEG TOWER,
RECEIVED MAYDAY

遭難通信を了解する局の行動(Action by Stations Acknowledging Receipt of a Distress Message)

遭難通信を了解する局がとるべき行動

1. 遭難通信に対する速やかな了解
2. 通信の管制を取り、その責任を移譲する場合は具体的かつ明確にspecifically and clearlyその移譲先の航空機に示す
3. 懸念を抱いている航空管制機関Air Traffic Service(ATS)や航空機を運用する組織aircraft operating agencyに全ての必要な情報が提供されているかどうかを速やかに確認する
4. 遭難通信を受信した周波数と、可能であれば遭難機が使用したその他の周波数を引き続きモニター
5. 遭難通信が行われている周波数に不必要な他局が入らないように警告する
6. 遭難通信に支障のある可能性のある全ての通信を中断する


遭難通信の中継(Relay of a Distress Message)

遭難機以外の局により中継して繰り返される遭難通信の内容は、次のとおり構成する。

遭難通信の中継要領

1. 遭難符号 “MAYDAY RELAY” (3回)
2. “THIS IS
3. 中継局のコールサイン(3回)
4. 遭難符号 “MAYDAY” (1回);
5. 遭難機の情報(位置、遭難の種類、搭乗員数など)

MAYDAY RELAY, MAYDAY RELAY, MAYDAY RELAY,
THIS IS CESSNA NJI, CESSNA NJI, CESSNA NJI,
MAYDAY
PIPER FXQQ STRUCK BY LIGHTNING DITCHING
AIRCRAFT POSITION: 20 MILES EAST OF WINNIPEG
ALTITUDE: 1500 FEET
AIRSPEED: 125 KNOTS
HEADING: 270 DEGREES
ONE PERSON ON BOARD
PIPER FXQQ.


静粛の強制(Imposition of Silence)

遭難機または遭難通信態勢下にある局は、遭難通信に支障となるinterferes with the distress traffic付近の全ての局に対し、”ALL STATIONS”もしくは特定の局を指定し、“SEELONCE MAYDAY”の用語で静粛を強制するimpose silence
必要な場合は、その他の局も国際的な表現として“SEELONCE DISTRESS”を使用することもできる。これが発せられている間は、遭難通信以外に関する全ての通信を速やかに中断する。

特定の局に対する静粛の強制の場合
CESSNA FNJI,
THIS IS PIPER FXQQ,
SEELONCE MAYDAY OUT.

全ての局に対し静粛を強制する場合
ALL STATIONS, ALL STATIONS, ALL STATIONS,
THIS IS CESSNA FNJI,
SEELONCE DISTRESS OUT.

遭難通信の取り止め(Cancellation of Distress)

遭難状態が終了もしくは救助活動の終了など通信の静粛維持が不要になった場合、遭難通信態勢を管制する局が“ALL STATIONS”宛に遭難通信の行われていた周波数において、通常の通信態勢normal workingへの復帰を宣言する。要領は以下のとおり。

遭難通信の中止要領

1. 遭難符号 “MAYDAY” (1回)
2. “HELLO ALL STATIONS” (3回)
3. “THIS IS
4. メッセージを送信する局のコールサイン
5. メッセ―ジの送信時刻
6. 遭難機のコールサイン (1回)
7. “SEELONCE FEENEE

MAYDAY,
HELLO ALL STATIONS, HELLO ALL STATIONS, HELLO ALL STATIONS,
THIS IS WINNIPEG TOWER,
TIME 1630 ZULU,
PIPER FXQQ,
SEELONCE FEENEE OUT.

注:上で示される要領は、他の局が通常の通信態勢に復帰する目的で行われる。捜索救難を行う機関が遭難機がすでに遭難状態にないことを知らされているかを確認するため、もっとも近い局に対して、遭難状態終了の理由を加えながら、通常の呼び出しが必ず行わなければならない。


緊急時の通信方法(Urgency Communications)

緊急信号(Urgency Signal)

緊急符号は、呼び出しを行った局が、早急な救助immediate assistanceは必要ないものの航空機やその他の車両、乗員に対し安全上の懸念があるconcerning the safetyという非常に緊急のメッセージを有しており、また局の代表をする責任者の権限により行われたことを示す。

緊急符号は、緊急通信の初頭にてPAN PAN”が3回繰り返される。緊急符号とそれに続く緊急通信のメッセージ内容は、全ての局宛または特定の局を指定して送信される。

優先順位(Priority)

緊急通信は、遭難通信を除くすべての通信に優先して行われる。
緊急符号を聴知した局は、少なくとも3分間はその周波数のモニターを継続する。その後、もし緊急通信のメッセージ内容が聞こえてこなければ、可能であれば地上局に、緊急符号を聴知した旨と通常通信態勢に復帰する旨を伝える。緊急符号を聴知した全ての局は、それに続く緊急通信のメッセージに支障がない様に配慮しなければならない。
緊急通信のあった周波数以外で通信していた他の局は、全ての局宛で緊急通信のメッセ―ジ内容が送信されていない限り、緊急通信に支障のない範囲で通常の通信を継続continue normal workする。

遭難通信Distressとの大きな違いとなるポイントは、この優先度ですね。他の局は3分間は静かにしてモニターしてくれますが、その後の続きの通信が無ければ、3分経ったところで「さっき〇〇が何か言ってたけど元の態勢に戻るね」となります。

また、例えば「〇〇TWR」宛てで緊急通信がされている場合で、その他の周波数に入っていれば、航空機は緊急通信に支障ない範囲で通常と変わらず通信をすることができてしまいます。

使用すべき周波数(Frequencies to be Used)

航空機による最初の緊急通信の送信は、その時使用中の地対空周波数で行う。使用中の周波数での通信設定ができない場合は、航空緊急周波数aeronautical emergency frequency(121.5MHz)または使用可能なその他の周波数で繰り返して行う。

緊急時の交話内容(Urgency Message)

緊急符号に続く緊急通信の内容のメッセージ内容にて、事態の詳細情報を示す。

緊急通信が、特定した局に宛てられたものでなく、かつ他の航空機や地上局に了解された場合、了解した局管制機関air traffic service unit空港事務所airport operating agencyなどの必要な機関に対し、得られた詳細情報を転送する。

緊急通信は、下記の要素をできるだけ下記の順序で含むこと。

緊急通信のメッセージ内容と順序

1. 緊急符号 “PAN PAN” (3回)
2. 特定の局名または“ALL STATIONS” (3回)
3. “THIS IS
4. 転送する航空機のコールサイン
5. 緊急事態の詳細
6. 機長の意図
7. 現在位置、高度、針路
8. その他必要な情報

PAN PAN, PAN PAN, PAN PAN,
ALL STATIONS, ALL STATIONS, ALL STATIONS,
THIS IS CESSNA FNJI,
LOST, REQUEST RADAR CHECK
POSITION: UNKNOWN
AIRSPEED: 112 KNOTS
ALTITUDE: 1050 FEET
CESSNA FNJI OVER.

応答例する場合の例:
PAN PAN, CESSNA FNJI,
THIS IS WINNIPEG TOWER,
YOUR POSITION IS 20 MILES SOUTH OF WINNIPEG,
WINNIPEG TOWER STANDING BY.

MAYDAYのDistressコールと、PAN PANのUrgencyコールの大きな違いの一つに、宛て先局の指定があります。MAYDAYでは宛先指定を一切しませんが、PAN PANの場合は全局もしくは特定局を指定して行います。

緊急通信の取り止め(Cancellation of Urgency Message)

聴知した他の局に対する行動を求める緊急メッセ―ジを発した場合、緊急事態が終了または支援が不要となった場合には速やかに取り止めを知らせる通信を行わなくてはならない。この取りやめに関する通信は“ALL STATIONS”宛で行う。

PAN PAN,
ALL STATIONS, ALL STATIONS, ALL STATIONS,
THIS IS CESSNA FNJI,
CESSNA FNJI HAS BEEN POSITIONED AT 20 MILES SOUTH OF WINNIPEG AIRPORT PROCEEDING NORMALLY,
CESSNA FNJI OUT.


まとめ

お疲れ様でした。
スタディガイドを丁寧に作って頂いてるのは非常にありがたいのですが、非常に読みにくかったです。。
万が一、記事内の解釈や表現への誤りにお気づきの場合は、コメントまたはお問い合わせにてお知らせ頂けますようお願い致します。

僕は一応、日本のパイロット用の無線資格である「航空無線通信士」も持っています。
日本もカナダの状況と似ていて、パイロットがこの資格を取得しなければ業務はできないし、管轄する省庁も、パイロット免許は国土交通省ですが、無線資格は総務省です。ただ唯一、もらえる免許証は非常にかっこいいです。。
この免許、カナダのROC-Aとはかなり様子が違っていて、試験科目が「無線工学」「無線法規」「英語」「電気通信術」と別れていて1日掛かりです。。工学と法規の問題は非常にややこしく、かなりの知識ベースの試験という印象です。興味のある方は、下記のリンクから公開されている試験問題を一度ご覧頂ければと思います。

一方、カナダの無線免許ROC-Aの試験は、今まで見てきたとおり、実際の交話法、特に緊急時の通信法に重点を置いたかなりの実用ベースであると思います。ここで勉強した知識が、これから自分が身を置く危険な世界でダイレクトに役立つと思えば、やる気も出ますよね。

特に緊急時の通信などは、そういった経験に縁のないラッキーな状態でいる限り、使うことはありません。どんどん使い方を忘れてしまい、本当に必要な時にはその時の焦りも相まって、なかなかうまく活用できないかもしれません。何度も復習をして、役立てて頂ければ幸いです。

参考:日本の航空無線通信士免許証 ホログラムで富士山が浮かび上がるお洒落な見た目ですが、何よりすごい格好です。。

なお、カナダは現時点でどの国ともこの免許に関する相互協定を結んでいません。カナダのROC-Aを受検して合格する以外にカナダでパイロットになるための無線資格を手に入れる方法はないということです。


ここまでは筆記試験対策でしたが、忘れてはならない口頭試験対策として別記事を作成しましたので、↑も併せてご覧頂き、試験に備えてください!

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