遭難時の通信方法(Emergency Communications)
緊急事態について(Emergency Conditions)
航空通信では、緊急事態を危険や深刻さに応じて次のように分類する。
遭難通信(Distress Communications)
遭難通信はこの章で定められた手順で実施すること。
遭難状態にある局の注目の集中、位置の把握や救助の支援を妨げてはならない。
使用すべき周波数(Frequencies to be Used)
遭難機による最初の遭難通信は、その時の入系中の管制機関に対して行う。通信設定できない場合は、航空遭難周波数121.5MHzまたはその他の利用可能な周波数に対して繰り返して実施する。
遭難信号(Distress Signal)
無線通信において、遭難時に使用される用語は”MAYDAY”で、遭難通信の初頭にて使用する。この遭難通信では、発信者自身が早急な救助が必要な重大で差し迫った危険な状態にあるのか、またはその他の航空機や船舶、その他の車両等がその状態にあるということを察知したのかを明示する。
遭難通信の優先度(Priority of Distress)
遭難通信は、その他の通信に対し絶対的な優先権がある。状況を聴知しているその他の全ての局は、遭難通信を妨げるおそれのある全ての通信を速やかに中断し、通信内容を引き続き確認すること。
遭難通信態勢の管制(Control of Distress Traffic)
遭難通信態勢の管制は、遭難機自身もしくはそれを中継する局が責任を有する。中継局は、救助に効果的となる航空管制機関(ATC)や捜索救難機関(SAR)への中継の代行を行う。
遭難通信の呼び出し(Distress Call)
遭難通信は、遭難している局を識別し、局の代表者のみが行う。また次の内容を含むこと。
遭難通信では、特定の局に宛てて応答を求める発信をすべきでない。
上のような発信の仕方は、内容を伝えるのに時間を要しそうな場合に、「内容はさておき、とりあえず緊急事態にあったことを周囲に知らせる」という目的で行われるものです。これで遭難事態を周知できれば、周囲の航空機や管制機関が通信を中断してくれるといった協力を期待できますので、一定の効果はあるものと思います。
ただしこれで終わりではなく、この後にもう一度通信をして、下記の要領で詳細を全体宛に再度知らせる必要が生じます。
遭難通信のメッセージ(Distress Message)
遭難通信の内容の送信は呼び出しに次いで、可能な限り速やかに行う。
メッセージ内容は、次の要素をこの順番にできる限り多く含めること。
往々にして緊急時は、機内で対処すべきことが多く、対外通信に時間を割けない場合がほとんどです。できる限り、最初の「MAYDAY」の通信の際に一遍に情報を伝えられるように、この発信要領はよく訓練しておくべきものと考えています。
なお、呼び出し直後にすぐにメッセージの送信ができれば、上記の1と2の項目のようにもう一度MAYDAYをコールする必要は当然なくなります。
遭難通信の繰り返し(Repetition of a Distress Message)
遭難通信のメッセージ内容は、他の局が応答するのに十分な時間間隔を空けながら、応答が得られるか送信できなくなるまで繰り返す。
まだ応答も救助も得られていない遭難通信を聴知した局は、救助に適した局の注意が得られるような可能な手段を取る。併せて、捜索救難機関に事態の発生を知らせるための必要な手段を取る。
遭難機の行動(Action by Station in Distress)
遭難機の機長は、下記の適切な対応を行う。
遭難機以外の行動(Action by Stations Other than the Station in Distress)
遭難状態にない他の航空機は、下記の場合に遭難メッセージを送信する。
遭難メッセージを受信したが、当該機が十分近い距離にないと判明した場合、了解はすぐに行わなくてもよく、この場合は遭難機により近い局が応答をすべきである。
遭難通信を傍受した場合の行動(Action by Other Stations Hearing a Distress Message)
遭難通信態勢(Distress Traffic)
遭難通信態勢は、遭難機により要請される早急な援助に関連し、最初の遭難通信の呼び出し以降に行われたすべての通信を指し、遭難符号である”MAYDAY”がコールされると開始される。この通信方法は、最初の遭難通信の呼び出しを認識していない局に対して注意喚起し、遭難通信の行われている周波数に注意を向けることを目的として行われる。
遭難通信態勢にあることを認識しながら自身が救助を行うことができない全ての航空機は、救助が実施されるのを確認するまでは、遭難通信態勢に従うこと。
遭難機の存在を認識しているが参加せず聴守のみ実施している全ての航空機は、通常の通信態勢に復帰するか遭難の取り止めの通信があるまでは、遭難通信で使用される当該周波数での通信の発信は禁止。
遭難通信の了解要領(Acknowledgment of Receipt of a Distress Message)
遭難通信を受信をして内容を了解した旨を伝える要領は以下のとおり。
遭難通信を了解する局の行動(Action by Stations Acknowledging Receipt of a Distress Message)
遭難通信の中継(Relay of a Distress Message)
遭難機以外の局により中継して繰り返される遭難通信の内容は、次のとおり構成する。
静粛の強制(Imposition of Silence)
遭難機または遭難通信態勢下にある局は、遭難通信に支障となる付近の全ての局に対し、”ALL STATIONS”もしくは特定の局を指定し、“SEELONCE MAYDAY”の用語で静粛を強制する。
必要な場合は、その他の局も国際的な表現として“SEELONCE DISTRESS”を使用することもできる。これが発せられている間は、遭難通信以外に関する全ての通信を速やかに中断する。
遭難通信の取り止め(Cancellation of Distress)
遭難状態が終了もしくは救助活動の終了など通信の静粛維持が不要になった場合、遭難通信態勢を管制する局が“ALL STATIONS”宛に遭難通信の行われていた周波数において、通常の通信態勢への復帰を宣言する。要領は以下のとおり。
緊急時の通信方法(Urgency Communications)
緊急信号(Urgency Signal)
緊急符号は、呼び出しを行った局が、早急な救助は必要ないものの航空機やその他の車両、乗員に対し安全上の懸念があるという非常に緊急のメッセージを有しており、また局の代表をする責任者の権限により行われたことを示す。
緊急符号は、緊急通信の初頭にて“PAN PAN”が3回繰り返される。緊急符号とそれに続く緊急通信のメッセージ内容は、全ての局宛または特定の局を指定して送信される。
優先順位(Priority)
緊急通信は、遭難通信を除くすべての通信に優先して行われる。
緊急符号を聴知した局は、少なくとも3分間はその周波数のモニターを継続する。その後、もし緊急通信のメッセージ内容が聞こえてこなければ、可能であれば地上局に、緊急符号を聴知した旨と通常通信態勢に復帰する旨を伝える。緊急符号を聴知した全ての局は、それに続く緊急通信のメッセージに支障がない様に配慮しなければならない。
緊急通信のあった周波数以外で通信していた他の局は、全ての局宛で緊急通信のメッセ―ジ内容が送信されていない限り、緊急通信に支障のない範囲で通常の通信を継続する。
遭難通信との大きな違いとなるポイントは、この優先度ですね。他の局は3分間は静かにしてモニターしてくれますが、その後の続きの通信が無ければ、3分経ったところで「さっき〇〇が何か言ってたけど元の態勢に戻るね」となります。
また、例えば「〇〇TWR」宛てで緊急通信がされている場合で、その他の周波数に入っていれば、航空機は緊急通信に支障ない範囲で通常と変わらず通信をすることができてしまいます。
使用すべき周波数(Frequencies to be Used)
航空機による最初の緊急通信の送信は、その時使用中の地対空周波数で行う。使用中の周波数での通信設定ができない場合は、航空緊急周波数(121.5MHz)または使用可能なその他の周波数で繰り返して行う。
緊急時の交話内容(Urgency Message)
緊急符号に続く緊急通信の内容のメッセージ内容にて、事態の詳細情報を示す。
緊急通信が、特定した局に宛てられたものでなく、かつ他の航空機や地上局に了解された場合、了解した局は管制機関や空港事務所などの必要な機関に対し、得られた詳細情報を転送する。
緊急通信は、下記の要素をできるだけ下記の順序で含むこと。
MAYDAYのDistressコールと、PAN PANのUrgencyコールの大きな違いの一つに、宛て先局の指定があります。MAYDAYでは宛先指定を一切しませんが、PAN PANの場合は全局もしくは特定局を指定して行います。
緊急通信の取り止め(Cancellation of Urgency Message)
聴知した他の局に対する行動を求める緊急メッセ―ジを発した場合、緊急事態が終了または支援が不要となった場合には速やかに取り止めを知らせる通信を行わなくてはならない。この取りやめに関する通信は“ALL STATIONS”宛で行う。
まとめ
お疲れ様でした。
スタディガイドを丁寧に作って頂いてるのは非常にありがたいのですが、非常に読みにくかったです。。
万が一、記事内の解釈や表現への誤りにお気づきの場合は、コメントまたはお問い合わせにてお知らせ頂けますようお願い致します。
僕は一応、日本のパイロット用の無線資格である「航空無線通信士」も持っています。
日本もカナダの状況と似ていて、パイロットがこの資格を取得しなければ業務はできないし、管轄する省庁も、パイロット免許は国土交通省ですが、無線資格は総務省です。ただ唯一、もらえる免許証は非常にかっこいいです。。
この免許、カナダのROC-Aとはかなり様子が違っていて、試験科目が「無線工学」「無線法規」「英語」「電気通信術」と別れていて1日掛かりです。。工学と法規の問題は非常にややこしく、かなりの知識ベースの試験という印象です。興味のある方は、下記のリンクから公開されている試験問題を一度ご覧頂ければと思います。
一方、カナダの無線免許ROC-Aの試験は、今まで見てきたとおり、実際の交話法、特に緊急時の通信法に重点を置いたかなりの実用ベースであると思います。ここで勉強した知識が、これから自分が身を置く危険な世界でダイレクトに役立つと思えば、やる気も出ますよね。
特に緊急時の通信などは、そういった経験に縁のないラッキーな状態でいる限り、使うことはありません。どんどん使い方を忘れてしまい、本当に必要な時にはその時の焦りも相まって、なかなかうまく活用できないかもしれません。何度も復習をして、役立てて頂ければ幸いです。
なお、カナダは現時点でどの国ともこの免許に関する相互協定を結んでいません。カナダのROC-Aを受検して合格する以外にカナダでパイロットになるための無線資格を手に入れる方法はないということです。
ここまでは筆記試験対策でしたが、忘れてはならない口頭試験対策として別記事を作成しましたので、↑も併せてご覧頂き、試験に備えてください!
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