PSTARの概要と各項目の要点まとめ
本解説ページは「第7版(2021年2月)」を分析し、PSTARで求められる知識の概要を日本語で解説しています。数年に一度問題が改訂されています。内容に変更が生じた場合には、解説のポイントがズレてしまう可能性がありますので、ご了承ください。
PSTARの概要や勉強法については、こちらに、まとめの記事を記載していますのでご覧ください。
1.Collision Avoidance(衝突防止法について)
小型練習機の数や、実際に飛行している航空機の種類が日本と比べ物にならないほど多いカナダの空域において、VFR機同士が互いに回避方法を理解することは非常に重要といえます。
本項目は、必要な優先度を一度理解してしまえば、簡単な内容なので、難易度:★☆☆☆☆です。
航空機の種類別による進路権の優先度
航空機の種類によって行動の自由度が異なるので、優先度にも差が設けられています。
優先度 | 種 類 | イメージ | 備 考 |
---|---|---|---|
1 | 緊急機 | すべてはこれに譲る | |
2 | 気球 | 日本の航空法にはない概念 | |
3 | 滑空機 | 旋回は可能だが動力非搭載 | |
4 | 曳航機 | 動力を搭載するも小旋回に制限 | |
5 | 飛行船 | 鈍重だが比較的小旋回可能 | |
6 | 動力機 | 全ての重航空機、ヘリも含む |
同高度機どうしの進路権の優先度と回避法
交差する場合
相手を右側に見る方が譲る側です。
向かい合う場合
互いに右側に回避します。
追い越す場合
追い越す場合は右側へ追い越します。
基本的に同高度での回避法は「右に避ける」の法則です。
交差する場合も、結局は回避すなわち「後ろ側に出たい」ということなので、どちらが右に避けて後ろに行けるかは明らかですね。
同時に進入中の航空機どうしの優先度
先に進入している=低高度にいる航空機に進路権があります。
後続進入機は、先行機に進路を譲ります。
2.Visual Signals(視覚信号について)
指向信号灯の問題が多い。これも覚えてしまえば簡単ですが、考えても思い出しにくい面があるので難易度:★★★☆☆ です。
指向信号灯とは?
航空機に搭載する通信機が故障した際に、管制指示を音声でやりとりできなくなることから、管制官とのコミュニケーションの方法として使用される信号。飛行中・地上のパイロットに向けて管制塔から指向性の高い光信号を使って指示を送ります。赤/緑/白の3色と連続・点滅の日発光法を使い分けて指示します。
飛行中にこの光線がどのように見えるのか、①実際にタワーに行ってどんなものなのか見てみる ②飛行中に自機に照射してもらって見え方を感じる をオススメします。
指向信号灯の意味
信号 | 指向信号 | 地上での意味 | 上空での意味 |
---|---|---|---|
STEADY GREEN LIGHT | ● | Cleared for takeoff | Cleared to land |
STEADY RED LIGHT | ● | Stop | Give way to other aircraftand continue circling |
SERIES OF GREEN FLASHES | ★“ | Cleared to taxi | Return for landing |
SERIES OF RED FLASHES | ★“ | Taxi clear of landing area in use | Airport unsafe; do not land |
FLASHING WHITE LIGHT | ☆“ | Return to starting point on airport | N/A |
基本的に信号機と同じで緑=GO、赤=STOPのイメージですね。
日本では赤と緑の交互のパターンもあって「注意せよ」の意味になったり、地上での白色灯にも意味があったりしますが、カナダとは微妙な違いがあります。
その他の視覚信号
滑走路灯を用いた信号
滑走路灯の点滅は、地上の車両や歩行者に対して、速やかに滑走路から離脱することを促す信号になります。
花火を用いた信号
赤色の花火による視覚信号は、軍用飛行場のみで用いられ、しばらくの間の着陸を制限する意味の信号になります。
鉄塔等の塗色による信号
黄色と黒で交互に塗られた塔やパイロンは、毛皮農場の存在を示します。
また、20ft以上の監視塔には赤旗を掲げることが義務付けられています。
野生動物保護
野生動物の上空を飛行する場合は、対地2,000ft 以上が必要です。
トナカイやカリブー、ムースなどは減少が顕著で特に保護が必要とされています。
3.Communications(通信法について)
カナダで多い非管制飛行場における通信要領に関する問題が多くなっています。また、基本事項は世界共通の基本知識に関することも多いですが、日本とは異なったルールで運用されている内容も含まれています。安全で円滑な通信を実施するために正しい使用法を理解することが必要になります。難易度:★★★☆☆です。
通信法の基本
アルファベットの発音法
航空管制交話ではアルファベットは下記の定められた発音をすることが求められます。
多くの場合、機体の登録番号をコールサインとして呼称する場合に使用するのがほとんどです。
コールサインの呼称法
航空交通管制官との最初の通信では、コールサインとして航空機の種類+4桁の登録番号でコンタクトします。カナダ国外で呼称する場合は、さらにカナダ固有の登録番号となる頭文字「C」を含む5桁で呼称します。ATCから省略した呼称をされた場合は、最小2桁のコールサインでパイロット側も呼称することができます。
〇〇 GND, DIAMOND KATANA, ABCD. REQ …
メッセージの了解法
ATCからのメッセージを了解する場合は、コールサインに加えて指示の復唱または AffirmativeやNegativeなどの適切な用語を使用することで行います。
着陸許可等の全ての復唱を求められない許可に対しては、コールサインを送信するのみで了解の意を表すことができます。
感明度を表す指標
通信の感明度を表す指標で、「READING YOU 〇」「READIBILITY 〇」の用語で表現します。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
UNREADABLE | READABLE NOW AND THEN | READABLE WITH DIFFICULTY | READABLE | PERFECTLY READABLE |
各種周波数について
MF
Mandatory Frequency 聴取義務周波数。出発したVFR機は、規定された距離・高度に達するまではこれをモニターします。その範囲や高度などの規定は、 CFSに記載されています。
地上局が運用していない場合にパイロットがMFで一方送信を実施する場合は、直接周囲の航空機に対して行います。
国際緊急周波数
飛行中に航空機は可能な限り121.5をモニターします。
緊急時の用語
ATISの活用
Automatic Terminal Information Serviceは、基本的に各正時ごとの飛行場の使用滑走路、天候などの最新情報を伝える放送で、通信の混雑緩和のために活用されます。
これを運用する飛行場でイニシャルコンタクトする場合は、聴知した識別番号を「ALFA」などのように付加します。これにより管制官は、現在の使用滑走路などATISに含まれる最新情報をパイロットが取得していることを確認できるので、改めて通信で伝える必要がなくなり、通信費消の緩和につながります。
非管制飛行場における通信法
UNICOMのない飛行場への着陸をする場合
UNICOM: Universal Communications 非管制飛行場で民営される通信施設のことで、着陸等の意図をATFの123.2で一方送信します。
ATF: Aerodrome Traffic Frequency MFを有さない非管制飛行場で使用される周波数です。
FSSの活用
FSS: Flight Service Station 非管制飛行場における離着陸に関するサービスの提供を行う機関で、コールサインは「〇〇RADIO」を使用します。
VFRで非管制空域に入る場合
可能な限り126.7を連続的にモニターします。
地上滑走・離陸許可の含まれる意味合いについて
使用滑走路までの地上滑走許可を受けた場合、それが「HOLD SHORT OF RWY」の指示を含まない場合でも、途中に他の滑走路を通過する必要があれば、改めて滑走路を横断する許可を受ける必要があります。誘導路の通過については許可の範囲に含まれるので、追加の許可を受ける必要はありません。
また、上図の状況で「TAXI R30 HOLD SHORT OF R27」と指示された場合は、リードバックするのは「HOLD SHORT OF R27」のみとなります。
離陸時に「IMMEDIATE TAKEOFF」の指示が出された場合は、 航空機間の間隔調整のために管制官が指示を出していますので、滑走路まで地上滑走し、一連の流れの中で離陸動作に入ります。
離陸後は、 一般に少なくとも管制圏を出るまでの間はTWRの周波数に留まります。
着陸時に、着陸許可とともに、「TURN RIGHT AT THE FIRST INTERSECTION」の指示を出された場合は、着陸後に安全に離脱できる範囲の最も近い右側の誘導路から離脱します。
他機の飛行情報に関する交話法
他機の情報を管制交話内で伝達する場合には、
①方向 ②距離 ③高度 ④動向
のように伝えるのが一般的です。①方向は、自身が現在向いている針路を時計上の12時に見立て「〇時」と呼称します。
針路270°で飛行中に「TRAFFIC 2 O’CLOCK, 5NM, E-BOUND」の通報があった場合は、「自身の2時方向(この場合は右60°、方位300°方向)距離5NMに、高度不明の東向きで飛行中の航空機がいる」ということが分かります。
サーキット飛行中、ダウンウィンドレグでATCにその旨を通報した際に、他機がサーキット内を飛行している場合は、自身の進入順序または適切な指示が与えられます。
例:「YOU ARE NUMBER 2」「MAKE 360 ON D/W」
飛行計画や飛行情報について
Flight Service Specialistについて
Flight Service Specialistは、FIC: Flight Information Centres 飛行情報センターで勤務する飛行情報の処理を扱うスタッフです。最新の天候情報の提供やNOTAMの作成、フライトプランの処理などの各種飛行計画に関するサービスを行います。
NOTAMについて
NOTAMは全てのFICで利用可能で、他にもFSSやAFSからも提供されています。
新規または更新されたNOTAMに「EST」の用語が使用される場合、また別の取消・変更のNOTAMが発行されるまでが有効期間となります。「EST」が使用されていなければ、NOTAM内で示された期間が有効期間です。
4.Aerodromes(飛行場について)
覚えることはそれほど多くなく簡単な内容です。難易度 :★☆☆☆☆
空港と飛行場の定義について
空港は、認定された飛行場と定義されます。
風向指示器について
風向指示器が各状態で示す風速は次のとおりです。
・15kt以上で水平
・10ktで5°水平の下
・6ktで30°水平の下
日本の基準と全く違うので注意!
滑走路と誘導路のマーキング
閉鎖された滑走路・誘導路は白または黄色の×印で区別されます。黄色は降雪地域でも視認しやすい工夫です。
滑走路番号は、滑走路の磁方位を上2桁にして表示します。東向きであれば「09」となります。
管制飛行場に置いて、図のような誘導路待機線がある場合、航空機が停止する位置は、特に管制官から別に指示されない限り、実線側に接した位置です。
誘導路上で、滑走路進入の待機地点表示が設定されていない飛行場では、滑走路の端から200ft離れた位置で待機します。
カナダでは「HOLD SHORT OF RWY」の管理を厳格に実施させている印象があります。離陸許可や着陸許可ですら省略する場合が多いリードバックでも、「HOLD SHORT」だけは必ず実施しています。
飛行場内と飛行場上空での運用の制限について
飛行場上空を離着陸時以外で 2,000ft 以下で飛行することは禁止されています。
飛行場内の航空機の移動可能範囲は、地上滑走及び離着陸のために使用されるエリアのみです。
非管制空港においては、航空機を移動させるため地上車両を運行する場合、空港のオペレーターの許可を受ける必要があります。
ヘリコプター用のマーキングについて
ヘリポートは、Hの文字が磁北を向くように示され、必要に応じて破線三角形で目立つように強調されます。
病院のヘリポートの場合は、赤十字の中にHが書かれます。
5.Equipment(装備品について)
装備品に関する知識は、出発前の準備段階に関するものが多く、飛行中に瞬発的に判断を求められる類のものではありませんが、覚える事項は多めです。概要を把握しつつ、どこを参照すれば正しく情報を得られるかを知っておくことが重要で、難易度:★★★★☆です。
航空機に搭載する書類
- 耐空証明または飛行許可証
- 航空機登録証明書
- 搭乗員の免許証
- 航空日誌
- 航空保険証
- 航空機飛行マニュアル類
安全のための装備品
単発機が水上で離着陸する場合
水上での離着陸をする単発機には、認可された生命保存器具、すなわち救命胴衣などの搭載が義務付けられています。
子どもを搭乗させる場合
子ども用の拘束装置を搭載していない場合は、しっかりと着席してシートベルトを装着した大人が抱えておく必要があります。 なお、カナダ航空法において、「幼児」の定義は、2歳以下の子どもを指します。
高高度を飛行する場合
13,000ft 以上を飛行する場合には酸素供給装置の搭載が必要です。高度10,000ft ~13,000ftにおいては、酸素マスクなしで活動できる最大時間は30分間とされています。
VFRで飛行する場合
25NM以上飛行する場合、 季節的な天候の変化や地理的なエリアを考慮して特定の緊急装備品を搭載しなければなりません。火を起こしたりシェルターを作るためのテントなど、飲料水や遭難信号を視覚的に発するものなどのサバイバル用品のことです。
夜間に飛行する場合
夜間に飛行場で離着陸を実施する場合には、飛行場は白色の滑走路灯など、運輸大臣の指定する灯火を運用しなければなりません。
夜間に乗客を乗せて飛行する場合、使用可能な着陸灯を搭載しておく必要があります。
定義について
国際緊急周波数は121.5です。なぜこの項目でこの問題があるのかは分かりません。。
お疲れ様でした!前半編はここで終了です。
第6章のPilot Responsibilities(操縦士の責任について)からの後半編は、下記のリンクからお進みください。
以前は「MAYDAY, ALL STATIONS×3, SILENCE FINISHED, OUT」と表記されていたものが更になりました。