FDとは
人間が空に飛ばないと分からない上空の風や気温、更にはその未来の情報が分かるとしたら凄いことですよね。
それを知ることができるツールが、Upper Level Wind and Temperature Forecasts、通称「FD」です。FはForecastでしょ?ではDはどこから来たの?とあまり深く考えないようにしましょう。
FDは、カナダの142ヵ所で定時観測されるデータを元に作成された上層風予想で、NAVカナダが運営するAWWS (Aviation Weather Web Site) のページから「FD」のタブを選択することで、上記のような表の形式で情報を取得することが出来ます。
何のデータをもとにして作成されている?
情報の信憑性を考える上で、出どころとなるデータが何かを知っておくことは非常に重要なことです。
FD予報は、NWPモデルと呼ばれるスーパーコンピューターモデルの大気情報が参照されています。
世界中の気象観測データを収集・分析し、1日2回00Zと12Zを基準とした情報の更新を行っています。
この大気情報と、32ヵ所で1日2回取得されるデータを元に、気圧、気温、相対湿度、風向風速を割り出し、それを更に分析して予報データを作成しています。
FDの種類にはどんなものがある?
使用目的に応じて、大きく2つの種類に分類でき、発行を担当する機関が異なっていることもあり、2種類で更新のタイミングが異なります。
更新のタイミングは?
低高度用FDの更新タイミング
カナダ気象局 (CMC) により00Zの解析データを元にして作成されたFDが0330Zに、12Zのデータを元にしたFDが1530Zに発行されます。ちなみに0330Zはローカル冬時間で1930、夏時間で2030、1530Zは冬時間0730、夏時間0830です。朝と夕方に更新されるというイメージですね。
0330Z発行の有効時間 | 1530Z発行の有効時間 | 有効時間 |
---|---|---|
05Z–09Z | 17Z–21Z | 4時間 |
09Z–18Z | 21Z–06Z | 9時間 |
18Z–05Z | 06Z–17Z | 11時間 |
有効時間は24時間分を綺麗に3等分した8時間ずつという訳ではなくて、最も直近のデータは賞味期限を早めに設定した4時間、その次は9時間、もっとも未来の予報は11時間という予報有効時間となっています。より正確な航法を実現するためには、最新の情報を使って飛行予定時間ができるだけ直近の時間に近づくようにするのが適当だと思います。
高高度用FDの更新タイミング
高高度用のFDは、世界空域予報センター (WAFC) / アメリカの国立気象局 (NWS) が発行しており、発行時間が低高度用と異なり、1時間30分ほど早い0200Zと1400Zのタイミングが設定されています。
0200Zはローカル夏時間で1800、冬時間で1900、1400Zは夏時間0600、冬時間0700です。こちらも朝と夕方に更新されるということは変わりません。
有効時間は4時間、9時間、11時間と低高度用と同じです。
観測局はどこにある?
カナダ全体では142ヵ所の観測局を中心にしてデータが作成、更新されています。カナダ国内を大きく次のような7つの気象観測地域で分類されています。
地域名 | 拠点数 |
---|---|
Arctic 地域 | 35ヵ所 |
Yukon and Northwest Territories 地域 | 21ヵ所 |
Nunavut 地域 | 19ヵ所 |
Pacific 地域 | 12ヵ所 |
Prairies 地域 | 21ヵ所 |
Ontario-Québec 地域 | 36ヵ所 |
Atlantic 地域 | 24ヵ所 |
太平洋岸地域の観測局
太平洋岸地域 (Pacific) は、BC州の州の形と完全に一致するので、「Pacific」=「BC州」であるということができ、12ヵ所の観測局が設定されています。
ICAO | 観測局名 | 飛行場標高 |
---|---|---|
CYDL | DEASE LAKE | 2,634 ft |
CYKA | KAMLOOPS | 1,133 ft |
CYPU | PUNTZI MOUNTAIN | 2,985 ft |
CYVR | VANCOUVER | 13 ft |
CYXC | CRANBROOK | 3,084 ft |
CYXJ | FORT ST. JOHN | 2,280 ft |
CYXS | PRINCE GEORGE | 2,266 ft |
CYYD | SMITHERS | 1,716 ft |
CYYE | FORT NELSON | 1,253 ft |
CYYF | PENTICTON | 1,130 ft |
CYZP | SANDSPIT | 21 ft |
CYZT | PORT HARDY | 71 ft |
日本の25倍の面積を有するBC州全体を12カ所の観測局でカバーしているので、そこまで密な配置にはなっていませんが、必要なところには設置をしてくれている印象です。
FDの読み方
ではここから、本題のFDの読み方の解説を行っていきます。
一般的には、次のような形で観測局ごとの情報を取り出すことになります。
例えば、下の例で24:00Z頃に6,000 ft 付近での飛行を計画していたとします。そうすると、必要になるデータは次のようになります。
この表記をどう読み取ればいいのかについて、まずは有効時間の見方から、風向風速、気温と分けて解説します。
有効時間の見方
まずは「Valid Time」として示される有効時間です。一番左のデータ情報の欄に太字でDDHHHHの形式での記載されていますね。
この時間を基準にした数時間前後で情報を使用することになり、具体的には「FOR USE」の欄で示される時間帯が適用時間になります。
例えば「FOR USE: 21-06」であれば、UTCの21時から06時 (冬時間であれば1PM~10PM)の9時間の間で使用するということで、予定の飛行時間がこの時間帯に含まれることを確認します。
風向風速の読み方
次にFDで取得するメイン情報と言える、上層の風向風速です。
できるだけ少ない文字数で必要な情報を伝えるための工夫として、あるルールが用いられています。
上記の例の場合は、260/26、つまり真方位260°から26ktの風が吹くということになります。
風が弱い場合の表記
5kt未満の場合は「light and variable」として 9900 と表記されます。
風邪が強い場合の表記
100kt以上の場合は、風向に50を足すことで表現されます。
010~360は01~36と表記されるので、これに50を足して「51~86」となります。
200kt以上の場合は、もう表現の方法もあえて設定するほどの頻度でも発生しないことから、単に「199kt以上」として取り扱われます。したがって、「7799」という情報があれば、「270˚から199kt以上」と解釈できます。
上記の例でみると、06Z-17Zの時間帯での30,000 ft での「770949」は、77-50=27⇒270°、09+100=109⇒109ktより「270°から109kt」と読み取れます。
この高度だけ風が強くなっていて、上昇前後にシアで揺れそうですね。
外気温度の読み方
温度は℃単位の摂氏で表記され、ここはほとんどひねりもなく読み取ることが出来ます。
ただし、低高度用のFDでは必ず「+」と「-」が付加されますが、高高度用では、24,000 ft 用はマイナスとプラスの区分が示されますが、これ以上の高度帯では、夏場でも外気温度は必ずマイナスになるということから、マイナスの表記が省略されるのが特徴です。
また、3,000ftでは外気温度情報は提供されません。
3,000ft の情報が欠けている場合がある?
下の例のように、たまに3,000 ft の風向風速情報が欠如しているFDを見かけることがありますが、決して誤りではありません。
観測局の標高が1,500 ft 以上となる場合には3,000 ft の風向風速 (外気温情報はもとからなし) が省略されます。例に示したPUNTZI MOUTNAIN 空港の場合、飛行場標高が2,985 ft もあります。
FDの実運航への活用
情報を取得して、実際の運航に活用し、安全で効率的な飛行を行うのが本来の目的です。
FDは真方位で提供される情報
実際に機上でコンパスや方位計を読み取って飛行する場合、採用するのは磁方位ですので、その点で注意が必要です。
飛行計画への活用については、針路に風を加味して飛行針路を算出する場合、必ず真方位の針路に対して加算するようにしましょう。多くのナビゲーションログの形式は既にそうなっていると思います。
多くの場合、
という算出プロセスになっていると思います。「真方位 / 真針路」と「磁方位 / 磁針路」が明確に区分され混同しないようになっていますね。
逆に、上空でFDによる風の情報を参考にせざるを得ない場面があったとします。
その際は、FDの風向風速は真方位ですから、機上のコンパスと一致せずそのまま使えません。飛行する地域の磁差を「16°E」というように処理してあげる必要があります。
間の高度を細かく使いたい
例えば1,500 ft で飛行するための飛行計画をする最、0 ft のFD情報は提供されていないため、3,000 ft のデータをそのまま使うしかありません。
一方で、4,500 ft といった高度で飛行する場合であれば、3,000 ft と6,000 ft の情報の中間値を取ってあげた方が、より正確なデータになります。
中間のデータを使用するプロセスである「比例配分」を適切に行う必要があります。
FDの今後
実は、FDに変わる新たな上層風情報ソースとして、FBというものがあります。
FBとは「Forecasts in digital form of the winds and temperatures aloft」を意味し、FDの改良版という位置付けです。
特徴は、電話でのみ取得可能な情報ということと、00Z、06Z、12Z、18Zの1日4回更新される点です。FDよりも倍の頻度で更新されることから、有効となる使用時間帯の幅も狭まり、精度が高まっていると言えます。
上層風予報を「FD」と呼称するのは従来アメリカとカナダだけで、世界気象機構 (WMO) では「FB」の呼称を採用しているそうです。今後数年で移行期間を設けながら少しづつFDからFBに置き換わっていく予定ですが、管轄は引き続きカナダ気象局 (CMC) で、基準高度や風向風速の表現法など様式はFDと同じですので、置き換わったとしても大きな混乱はないかと思います。
デジタル式の情報データであり、図表形式での利用が期待されている点も大きな特徴です。
FD (従来) | FB (予定) | |
---|---|---|
正式名称 | Upper Level Wind and Temperature Forecasts | Forecasts in digital form of the winds and temperatures aloft |
情報取得法 | ウェブサイト | 現状電話のみ |
更新頻度 | 1日2回 (00Z/12Z) | 1日4回 (00Z/06Z/12Z/18Z) |
応用 | ― | チャート上に適用可能 |