BC州立大学「UBC」にある新渡戸記念庭園とは

GOOD TO KNOW

バンクーバー国際空港やダウンタウンから車で30分ほどのところに、州立のブリティッシュ・コロンビア大学があり、その中に「新渡戸記念庭園」があるのをご存知でしょうか。

なぜ新渡戸稲造がこんなところに?

新渡戸稲造と言えば、現在の樋口一葉になる前の「五千円札の肖像」というイメージが強いですね。日本と西洋の国々がそれぞれのいいところとを理解し合い、自身が「太平洋の橋」となり、世界をよりよくしたいという信念を持った、まさに日本と西洋の架け橋となった重要な存在なのです。

お札の地図も「太平洋」が中心に描かれています。 出展: Wikipedia

盛岡から上京して、東京大学に進み、英語を使って留学をしたいと考えていた稲造は、英語の先生をしながら学費を払い、念願のアメリカへの留学を果たします。
太平洋の橋となるべく日本のことを一生懸命に伝える稲造に、当時日本に興味津々だったメリー・エルキントンは熱心に日本のことを教わる中で、稲造に惹かれ、後に彼女は新渡戸夫人となります。稲造は、親しみをもってメリーを「万里子夫人」と呼びました。

稲造は帰国後、農政学の助教授として働く多忙な生活の中で、病気を患います。病状が次第に悪化していくと、夫人と休養生活を送りながら、様々なことを考えるようになります。
その一つが、日本人が宗教教育を重視していない中で、どのように道徳教育を行っていくのかという西洋人の問いに対する回答でした。それまでの自身の経験や見識を交えながら、稲造はその答えとして武士道の存在で説明ができると考えました。この精神を外国人にも理解してもらいたいと思い、英語で執筆を行いました。この「武士道」は世界中の言語に翻訳され、人々に武士道を知らしめることになります。

京都の大学教授、高校の校長を経て、日米教授交換プログラムに選出された稲造は、再度渡米する機会を得、当時日本が国際社会から孤立しかけていた中で、世界各国から日本に対する誤解を解き、正しい理解を得るため、数多くの講演を進んで行いました。

1920年に国際連盟が発足し、常任理事国となった日本は、連盟の事務次長を選出することになります。そこで推薦されたのが、稲造です。
稲造は、国際連盟の事務次長の任を終えて帰国すると、貴族院の議員として活躍する傍ら、渋沢栄一氏を中心に発足した太平洋問題調査会の日本代表理事長を務めます。

稲造は、1933年(昭和8年)にカナダのアルバータ州バンフで開かれた第5回「太平洋問題調査会会議」に、日本代表団の団長として出席しました。世界から日本の信頼が失われかけている時期で、まさに崩れかけた太平洋の架け橋を修復しなければならないと意気込んで参加した大会でした。

第5回太平洋問題調査会会議バンフ大会の概要

開催日:1933年8月
開催地:カナダ アルバータ州バンフ
日本代表団:新渡戸稲造、高木八尺、横田喜三郎ら
参加国:米・日・中・英・豪・新・加・比・仏・蘭・蘭領東印(現インドネシア)
開催テーマ:「太平洋地域に於ける経済上の軋轢とその統制」

会議中にも病状は悪化し、ついにカナダの地で入院をすることになります。国際港として栄えていたバンクーバー島のヴィクトリアにおいて、10月15日に開腹手術を行うも病状は回復せず、その晩に71歳にて永眠されました。
つまりカナダのバンクーバーの地は、太平洋の架け橋になる夢を懸けた新渡戸稲造が、最後に果てた地なのです。

最後の地ヴィクトリアのRoyal Jubilee病院にある記念碑と胸像 出典: Google Maps

新渡戸記念庭園の概要

そんな新渡戸稲造の功績を称え、記念として作られたのがこの記念庭園です。
日本国外にある日本式庭園としては、5本の指に入るほどの立派な日本庭園と評価されます。

設計は、日本国外で多くの日本庭園を手掛けていた森歓之助(元千葉高等園芸学校教授)によるもので、1960年に急逝した森氏が設計した最後の作品となっています。池泉回遊式庭園と、茶室「一望庵」を持つ茶庭が特徴です。

庭園面積は約1ヘクタールで、これは甲子園球場より少し狭いくらいの規模です。

新渡戸記念庭園

1895 Lower Mall, Vancouver, BC
開園時間:月曜日~金曜日 10:00~14:00(夏季は16:30まで)
冬季入場料:11月~3月 無料(庭園の美観維持のための寄付による)
夏季入場料:4月~10月 大人$7(UBC関係者は無料)

庭園までのアクセス

BC州の市バスでUBCの入口まで来たら、C20という学内の巡回バスに乗り換えて到達できます。
車の場合は、近くに学校関係者用の駐車場が多数設置されていますが、やや駐車料金が高いので注意が必要です。

バンクーバー下流域(Lower Mainland)では最も太平洋側にせり出した位置にあるUBC内の、更に最も学校敷地内の海側、すなわち最も日本に近いところに設置されています。

出展: Google Maps

庭園の外観

11月から3月の冬季開門時間は、平日の10時から14時まで、4月から10月までの夏季は10時から16時30分までです。

森歓之助の生前最後の設計である旨が記された石碑が門の外に設置されています。

冬季は入場料は無料ですが、庭園内に設置された寄付箱に美観維持のための寄付金を入れてください。庭師スタッフが庭園を綺麗にしてくれています。夏季はこのチケットオフィスで入場料を支払って入園します。
介助犬以外では、犬を連れての入園はできません。

築地塀と呼ばれる外壁により、公園は一周が囲まれています。

庭園の内部

出展:botanicalgarden.ubc.ca

芝生に入らずに砂利道を歩くことが注意書きで示されています。
設計は反時計回りでの回遊になりますので、入門後は右に進みましょう。

新渡戸灯篭と呼ばれる春日灯篭です。楽園と浄化の象徴である蓮の花と、稲造の干支である犬の彫刻が特徴です。

静かに流れる小川です。

小川は池に流れ込んでいきます。

小さな段の滝になっていて、水の打つ音に癒されます。

池の周囲は、苔などの新鮮な緑に覆われ、鮮やかです。

雪見灯籠です。笠が大きく、灯りが灯ると笠に反射して水面を照らすのが特徴です。

池の中央にある島は、不朽の象徴である亀をモチーフに作られています。亀の足、頭、尾にあたる岩があると言われています。

稲造の生涯のテーマであった「願はくは われ太平洋の 橋とならん」 と書かれた石碑です。

池自体を太平洋に見立てた設計で、日本と西洋(北米)に見立てた陸地にはぞれぞれの植生に近い樹木が植栽されています。そしてこの中央の橋が「太平洋の橋」を表現する「七十七丸太橋」です。

池の上に掛けられた「八つ橋」です。夏には菖蒲で華やかになります。

見上げると針葉樹がそびえカナダ感があります。

新渡戸家の家紋の刻まれた石の自然灯籠です。出生地の盛岡産の石を使って作られ、家紋の月と星が刻まれます。

池は全周から見渡せます。

英語で「Marriage Lantern」と説明される灯篭ですが、日本語訳が分かりませんでした。新渡戸灯篭が男性的で、池の中央の島にある雪見灯籠が女性的、その融合的なフォルムという意味での命名と考えています。

日本から輸入された檜で作られた「東屋」です。

寄付金箱です。ここに気持ちの小銭を置いて行ってあげて下さい。

新渡戸博士の胸像は当初の造園設計にはなく、2014年に設置されたもので、台湾の実業家・許 文龍(シュー・ウェンロン)氏と、氏の運営する奇美財団による寄贈です。池や橋、庭園全体を見渡せる入口付近に置かれています。

茶室「一望庵」

園内にある裏千家の茶室「一望庵」です。

中には入れませんが、庭園も見事です。

外から中を伺うことが出来ます。

一周回るだけなら、15分もあれば見て回れてしまう規模の庭園です。
しかしUBCとしては、できれば45分ほどかけてゆっくり、時には園内のベンチに腰掛けて休みながら、色んなものに気付き、そして考えてみてほしいという思いがあるようです。

まとめ

市街地や繁華街からは少し離れた位置にある日本庭園ですが、日本を感じられるスポットとしてオススメです。しかも、日本と西洋の架け橋になるべく努力し、志半ばでこのバンクーバーの地で果てた新渡戸稲造を知る機会、考える機会として是非利用して頂きたいと思います。

晴れた明るい日はもちろん美しいですが、雨が降った時のしっとりした雰囲気もまた素敵です。花菖蒲が咲き誇る、紅葉の美しい、雪の降るにもぞれぞれ訪れてみたいですね。UBCの学内を見学して散策したついでにでも足を運んで、癒されてみてはいかがでしょうか。

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