2021年9月21日に2021年版Ver1.0の職業分類データが発表となりました。
元来、5年ごとに行われる国勢調査の調査結果を反映して策定されるものですので、更新のタイミングとしては予定どおりで、これについては何も驚くことはありません。
しかし特筆すべきは、この職業分類のシステムが運用を開始されて以来、これまでにないような大規模な構造的改変が行われたという点です。どういった変更が行われ、永住権を申請しようとする人たちにとってどういった影響があるのかについて、カナダ政府のウェブサイト上での発表をもとに見ていきましょう。
NOCからTEERで何が変わるのか
これまでの「NOC」について
これまで運用されてきた「NOC」(National Occupational Classification) による職業分類は、各職業に4桁の分類番号を与え、スキルタイプ「0」のほか、スキルレベルを「A」~「D」の4段階に分類するシステムでした。スキルレベルの「B」以上が一般に「スキルド職種」と呼ばれ、永住権取得のための「職歴」として主にカウントできるものでした。
詳細は、過去記事で紹介していますので詳細はそちらをご覧ください。
新システム「TEER」とは
これまで永住権申請の文脈で何度も耳にしてきた「スキルレベル」と呼ばれる職業分類を元にした「各職種の格付け」的なグレードの付け方が、新たなカテゴリ分類法を用いて変更されています。
その分類の基盤となる要素が、この「TEER」プログラムと呼ばれる名称にもなっている4つの要素です。
これまで4桁の数字で表示されてきた職業分類番号は、5桁の数字で分類されることとなります。
NOCからTEERが必要になった背景
背景①「スキルレベル」という誤解されがちだった概念の撤廃
カナダで行われている職業分類の目的は、国勢調査などを経て労働市場の動向を精確に察知し、適切な政策に適応させることであると考えられます。
移民や永住権申請という枠組みで考えれば、国家にとってできるだけ必要な人材、すなわち「ハイレベル」な人材、カナダのために活躍してくれる人材を優先的に移民させたいというのはよく理解できる話かと思います。
そこで、ハイレベルな人、つまりカナダで人手不足の分野や難易度の高い職業、国や州の政府が推進する分野での職種に就ける人、もっと平たく言えば、たくさん働いて多くの税金を納めてくれる人、こういった人たちをより効率的に移民させるような政策が行われてきました。
そこで、これまで運用されてきたNOCシステムにおいて、「スキルレベル」という概念を用いて全職業を「A」~「D」に分類し、「B」以上を「スキルド職種」と定義し、この職種で働くことを永住権申請の条件としてきました。
しかし、「スキルレベル」と銘打つ分類法にも関わらず、その分類自体があくまでも職業訓練の状況や学歴などに偏重した評価となっていることから、労働市場における本来の「スキル」を重視した職種の評価になっていなかったという長年の反省があります。これはカナダに限らず、職業の分類を用いて国勢調査や労働市場の分析を行うあらゆる国にとっても、共通の悩みの種となってきたようです。
例えば、仕事内容は実際には同じでも、永住権の申請に有利となるようにできるだけ「ハイレベル」なスキルであるかのように職業名を新たに作り出したり、またはより都合のよい職業名に移行したりといったことが行われてきており、それが問題視されてきました。
カナダでの新方策となるTEERシステムでは、あえてこの「スキルレベル」という名称での分類法を撤廃するという方法が選択されました。そしてその代替として、「TEER」の語源ともなる「Training, Education, Experience and Responsibilities」の4つの要素が指標にされるということにされたのです。
この新方式では、これまでのように単純に「スキルレベルが高い、低い」といった考え方では職業を分類できないので、労働市場で本来求められるべきより正確な職業分類が出来ることが期待されています。
背景② NOC「B」のアンバランス解消
従来のNOCシステムによる分類では、職種がNOC「B」に偏重するという傾向がありました。
2016年版NOC | 割合 | 2021年版TEER | 割合 |
---|---|---|---|
TEER カテゴリ0 | 9% | ||
NOCスキルレベルA | 28% | TEER カテゴリ1 | 19% |
NOCスキルレベルB | 42% | TEER カテゴリ2 | 31% |
NOCスキルレベルC | 24% | TEER カテゴリ3 | 13% |
NOCスキルレベルD | 6% | TEER カテゴリ4 | 18% |
TEER カテゴリ5 | 9% |
上の表を見ても明らかなとおり、全体で見るとNOCスキルレベル「B」が全体に占める割合が約半数を占めています。新TEERシステムではこのカテゴリ数を増設してでも、この不釣り合いな大きいグループを分割整理し、全体のバランスを取る必要が生じたと考えられます。
背景③ 賃金ベースではない分類法によるボランティアの位置付けの明確化
旧NOCシステムによる職業分類ではいくらの賃金で雇われているのかということに焦点が当てられてきており、「Paid」の仕事のみがその分類対象とされてきていました。そのため、ボランティアのような仕事が、社会的には非常に重要な意味合いを持つ一方で、どこにも分類できないという問題点がありました。
しかし、新TEERシステムによるカテゴリ分類では、単純に賃金に焦点を当てている訳ではないため、ボランティアのような経験も立派に評価の対象となることが期待されています。
TEERシステムによる新たな分類法
4桁で表示されたNOC分類から、TEER分類では5桁の数字で各職業が分類されます。
その各数字が意味するところについて、解説していきます。
1桁目: BOC (Broad Occupational Categories)
単純に職業の分野やジャンルでの分類です。ここに学歴や職業としてのスキルの話は一切ありません。
「0」~「9」の10個に分類されます。実際には、従来のNOCシステムでも、職業の種類の大分類は10個に分けられてきましたので、ここでは大きな変化はないと言えます。
赤字部分が旧NOCからの追加・変更部分となります。
2桁目: Major Group (大分類)
ここから新分類法であるTEERの要素が色濃く反映される部分で、「0」~「5」の6個に分類されます。
何気ないことですし、多くの方が見逃すポイントと思うのですが、この分類の記述という場面において、下記のような要件が明記されたことが今回のTEERプログラム化の大きな改変ポイントだと筆者は考えています。
これまでのシステムによる分類の場合は、スキルレベル「0」と「A」~「D」という分類の定義の中で、例えば「A」の説明では学歴に関する記載しかありませんでした。経験や職業訓練などで該当するかどうかを判別するには、個別の「雇用要件」を確認するしかなく、また同じスキルレベル内の別職種を見比べても、片や2年以上の専門教育を必須としていれば、別の部分では数年の経験があればそれで事足りるというように、この要件の中に相当の温度差がありました。
しかしTEERでの定義では、それに経験に関する記載がこの分類の中で明記されています。
また、TEER「2」~「4」の要件の記載に見られるように、下位のスキルレベルTEERの経験でも数年間の経験を積むことにより、より上位の関連職種クラスに入ることが出来ることが明記されているというのも、特色のひとつだと考えています。
この2桁目がキーポイントになっていると考える理由
これまでのNOCプログラムでは、この2桁目は「0」~「8」の9つの数字を使い、スキルレベルとしてそれぞれを「A」~「D」の4段階に分類してきました。
しかしTEERプログラムによる分類では、全体の桁数を5桁にするほどの細かい分類をしてまでも、この2桁目の分類を「0」~「5」までの6分類にまとめてきました。
これはすなわち、これまで行われてきた『「0」~「1」がA、「2」~「3」がB』といった複雑な分類ではなく、その数字自体が分類記号、すなわちこれまで用いられてきてきた「NOC B」などといった概念になると考えられます。
そうすると、これまでの「B」で分類されていた職種が「2」と「3」に分けられた意味は大きく、それぞれは全く別物と考えることができます。
すなわち、NOC「B」から「2」を維持した職種と、「3」に落ちた職種では何らかの大きな差が生じるものと考えられます。
3~5桁目: Sub-major / Minor /Unit Group (中・小分類)
ここでの分類もこれまでのNOCと大きな違いはありません。最終的に516個に分類されます。
5桁目が「9」で終わる職種
職業の名称のなかには、「その他の」で始まるものが数多く設定されています。
そうした職種を区別するために、新TEER分類では、こうした職種が末尾の数字「9」で分類されることとなりました。下の表にあるのはその一例です。
10019 | その他の行政サービス管理者 Other administrative services managers |
10029 | その他のビジネス業務管理者 Other business services managers |
21109 | その他の物理科学専門職 Other professional occupations in physical sciences |
41409 | その他の社会科学専門職 Other professional occupations in social science |
52119 | その他の映画/放送/舞台芸術関連の技術的/調整職 Other technical and coordinating occupations in motion pictures, broadcasting and the performing arts |
72429 | その他の小型エンジン/機器修理員 Other small engine and small equipment repairers |
64409 | その他の顧客/情報サービス担当者 Other customer and information services representatives |
94129 | その他の木工機械作業員 Other wood processing machine operators |
65109 | その他の販売関連職 Other sales related occupations |
65329 | その他のサービス業支援職 Other service support occupations |
NOC⇒TEER変更の影響について考察
旧NOC「B」職種の「2」と「3」の分化について
いままで一般的に用いられてきた「スキルレベル」という概念が撤廃される以上、それを前提としてきた永住権取得のためのプログラム、特に「Canadian Experience Class」のような移民ストリームは、ロジックの整理という大きな変革を強いられることが予測できます。
これが、新分類法「TEER」に準拠した永住権取得のための新規ストリームとして大まかな変更がなされてリリースされるのか、もしくは用語の定義だけを整理した形で従来のような態勢が維持されるのかについては定かではありません。
しかし、特に日本人で永住権を目指そうとする方々にとって人気であった次のような「旧スキルド職種」が「3」という分類になっているものがあるということは、その永住権取得に与える戦略的な影響が少なからずあるものと個人的に考えています。
NOC | TEER | ||
---|---|---|---|
1241 | 経営事業補佐員 Administrative assistants | 13110 | 経営事業補佐員 Administrative assistants |
6322 | 調理人 Cooks | 63200 | 調理人 Cooks |
6332 | パン屋 Bakers | 63202 | パン屋 Bakers |
6341 | 美容師/理容師 Hairstylists and barbers | 63210 | 美容師/理容師 Hairstylists and barbers |
これらはおそらく人気があり永住権取得を目指す上では、ある意味狙い目の職種であったことが予測されます。一方で、これらが2桁目のクラス分けにおいて「3」という位置に落ち着いたということは、人気でもあり、この職に就く人数も多かったことから、「比較的容易にできる仕事である」と評価された可能性があります。
現時点で、これらの職種が近い将来 (2022年秋ごろ) にこうした位置づけになることが分かっている以上、あえてこの職種での職歴で今から永住権を取りに行くということが「危険」となるかもしれません。
監督的立場「Supervisor」の位置付けについて
これまでやや不明確な位置づけであった「Supervisor」という位置づけが、いくつかの例外を残して基本的には「監督する人もされる人も同じ職種となる」ことが分かっています。
こうした職種に該当するもの以外では、Supervisorとして働いたとしてもそれを主張できないという可能性もあるので、注意が必要です。
まとめ
今後の政府発表などによく注意していかなければならないのは、個人的には次の職種で働いている、もしくは働く予定のある方だと考えています。
- 1241 経営事業補佐員Administrative assistants
- 6322 調理人Cooks
- 6332 パン屋Bakers
- 6341 美容師/理容師Hairstylists and barbers
しかし、カナダはいわゆる「ハイスキル」な人材だけを移民対象としている訳ではなく、あらゆる職種を対象としてきましたし、今後もその大きなスタンスは変わらないものと予測されます。そのため、こうした職種がいきなり永住権取得の対象外になるということはなく、あくまでも「永住権取得まで今までより長く働く働くことで対象になる」といったような差の付け方がなされるのではないかと予測しています。
また、これまですごく曖昧であり、いわば「言ったもん勝ち」に近かった職種の「自己申告」も、社会的に問題視されているという背景から、より厳しく管理されていくことが予測されます。
おそらく永住権への近道は、日本などでの職歴がある、もしくはやりたい職種を決めてカナダで学校に通うというのが (引き続き) 一般的で安全な戦略になるのではないかと考えます。