州の移民推薦プログラム(PNP)とは
カナダの永住権は、最終的に連邦政府(移民局)が審査を行って発行してくれるものです。
しかしその過程において、各州が候補者に対して与えられた枠数を使い、永住権を「ほぼ確実に取れる」権利を与えてくれるという夢のようなシステムが「州の推薦プログラム」 (Provincial Nominee Program) です。
BC州 (ブリティッシュ・コロンビア州) においても、例外でなくこのプログラムを独自のルールで運用されています。
本記事では、BC州の州推薦プログラム「BC PNP」の2つのストリーム(申請枠組み)と、4つのカテゴリーについて紹介していきます。
BCPNP 3つのストリーム
EEBCとSIは、内容自体はほぼ同一のものになりますが、2つのストリームへの同時申請はできないようになっているので、利用する場合にはどちらかを選ぶ必要があります。
また、ノミネート後のストリームの変更もできません。
ストリーム1:EEBC (EXPRESS ENTRY BC)
「エクスプレス・エントリーBC」 (EEBC: EXPRESS ENTRY BC) は、BC州が推薦をする候補者に対し、カナダ移民局が管理する永住権を取得するためのポイントシステムである「エクスプレス・エントリー」において使用できるポイントを付与することで、国の永住権取得制度を利用するオンライン申請のストリームです。
このストリームでは、次に紹介する4つのプログラムがあり、国が推進する「エクスプレス」なエントリーシステムを利用できることから、比較的早く永住権取得が出来るストリームであると言われています。
具体的には、エクスプレス・エントリーの最大1200点のうち半分に該当する600点が与えられることになり、ほぼ確実に点数の条件をクリアできる仕組みになっています。
EEBCストリームを利用する前提条件
- 国が定めるエクスプレス・エントリーの申請条件、すなわち3つのカテゴリーのうちどれかのカテゴリーの申請条件となる学歴や職歴、語学力、経済力などの条件を満たしていることが条件となります。
- また、職業分類「NOC」においてスキルド職種と呼ばれるTEER「3」以上のスキルレベルの職業をベースとして申請を行う必要があります。
EEBCストリームの申請料金
- 登録:無料
- BC州での招待後の申請手続き:$1,150
- エクスプレスエントリー申請料:$1,325
EEBCストリームの審査期間
約3ヵ月とされています。
ストリーム2:SI (Skills Immigration)
SI (Skills Immigration) は、 BC州で認定された雇用主に雇用された技術、経験、資格がある人向けのストリーム、実態は前述のEEBCとほぼ同じ内容になっています。
それもそのはず、本来こちらが先に産まれた兄のような存在で、2015年まではこちらが本流のシステムだったためです。
エクスプレス・エントリーの画期的要素である「オンライン手続き」に対応していないため、申請自体はオンラインですが、手続きを行うには印刷して郵送する従来式のペーパー処理が必須となります。
手続きに時間がかかる難点があるものの、エクスプレス・エントリーを介さないため、その分の申請費用は発生しないほか、年齢点や婚姻関係などで点数が大きく左右するエクスプレス・エントリーでは対象になりにくい人にもチャンスがあるというメリットがあります。
SIストリームを利用する前提条件
NOCによるスキルレベルの制限はなく、すべてのNOCが対象となります。
SIストリームの申請料金
登録:無料
BC州の招待を受けてからの申請:$1,150
レビューのリクエスト料金:$500
SIストリームの審査期間
約3ヵ月とされています。
審査実績
BCPNPに関する年次統計報告「Statics Report」の2020年版において、毎年約6,000人程がこのプログラムを使って永住権を与えられていることが発表されています。
ストリーム | 2020年 | 2019年 | 2018年 | 2017年 |
---|---|---|---|---|
Skills Immigration (SI) | 6,251名 | 6,503名 | 6,439名 | 5,931名 |
EEBCとSIどちらを選ぶべきか?
EEBC | SI | |
---|---|---|
最終的に永住権 | エクスプレスエントリー利用 | エクスプレスエントリー不使用 |
申請方法 | オンライン申請 | ペーパー処理 |
オファー職種 | NOC「B」以上のみ | NOC「D」から対象あり |
審査期間 | 早い | 遅い |
申請料金 | 高い BCPNP $1,150 EE $1,325 | 安い BCPNP $1,150 |
申請条件 | EE条件の合致+ 各カテゴリの合致 | 各カテゴリの合致のみ |
審査条件の計算方法
審査は、必要な要素を点数化して計算されます。
要素や配点などについて、別の記事で解説しています。
ストリーム3:EI (Entrepreneur Immigration)
こちらについては、別記事で改めて詳しく詳しく紹介します。
4つ+2つのカテゴリー
上記の項目では、どの方法を使うかというストリームの分別について見てきました。
ここでは、それらのEEBCとSIで共通で使用される4つのカテゴリーと、SI独自の3つのカテゴリーについて紹介します。
EEBCとSIに共通する4つのカテゴリー
それぞれのカテゴリーの詳細について紹介します。
なお、これらの4つのカテゴリーはいずれもEEBCとSI両方で共通していますが、条件の面で唯一異なる点は、EEBCの場合には次の条件があることです。
スキルド・ワーカー (Skilled Worker)
「スキルド」な仕事を国内外問わずどこででもいいので経験し、ジョブオファーを取得した「ワーカー」が対象となるカテゴリーです。
ドローイング実績
SI : Skilled Immigration 州で推薦⇒移民省運営のEEを介さずに永住権手続きとなるストリーム
EEBC : Express Entry British Columbia 州で推薦⇒EEで使える600点が付与⇒永住権のストリーム
時期 | 2021年 | 2020年 | 2019年 | 2018年 | 2017年 | 2016年 |
---|---|---|---|---|---|---|
12月下旬 | 100 106 | 95 99 | 92 100 | 85 85 | 80 80 | 90 90 |
12月上旬 | 97 100 | 95 97 | 94 100 | 85 85 | 80 80 | 80 80 |
11月中旬 | 96 97 | 93 92 | 93 99 | 80 80 | 73 73 | 80 80 |
11月上旬 | 93 94 | 93 92 | 93 99 | 80 79 | 73 73 | 80 80 |
10月中旬 | 91 91 | 93 92 | 94 102 | 81 80 | 73 73 | 80 80 |
10月上旬 | 91 87 | 93 92 | 92 97 | 82 82 | 73 73 | 80 80 |
9月中旬 | 90 86 | 93 93 | 92 97 | 82 82 | 73 73 | 80 80 |
9月上旬 | 90 86 | 94 94 | 93 96 | 82 84 | 73 73 | 90 90 |
8月下旬 | 90 86 | 94 94 | - | - | - | 95 95 |
8月中旬 | 91 88 | 96 96 | 95 100 | 82 87 | 74 74 | 100 95 |
8月上旬 | 91 89 | 97 97 | 100 104 | 82 87 | 74 74 | 110 |
7月中旬 | 91 90 | 98 98 | 101 110 | 84 91 | 77 77 | 135 135 |
7月上旬 | 92 91 | 98 98 | 105 110 | 87 92 | 85 85 | - |
6月中旬 | 93 92 | 100 100 | 95 105 | 87 96 | 85 85 | - |
6月上旬 | 93 93 | 100 105 | 95 105 | 90 96 | 76 82 | - |
5月中旬 | 94 94 | 100 110 | 95 105 | 87 95 | 77 85 | - |
5月上旬 | 94 94 | 102 108 | 95 105 | 86 92 | 85 90 | 120 120 |
4月中旬 | 94 94 | 100 105 | 95 105 | 86 91 | 90 90 | - |
4月上旬 | 95 95 | - | 95 105 | 84 89 | 80 85 | 135 |
3月下旬 | 96 96 | - | - | 84 89 | - | - |
3月中旬 | 96 96 | 102 105 | 94 100 | 100 105 | 85 85 | - |
3月上旬 | 97 97 | 102 110 | 89 89 | 77 82 | 90 90 | 135 135 |
2月中旬 | 98 104 | 103 115 | 85 85 | 80 80 | 90 90 | - |
2月上旬 | 98 104* | - | 85 85 | 75 75 | 91 91 | - |
1月中旬 | 96 106* | 100 110 | 85 85 | 75 75 | 100 95 | - |
1月上旬 | 95 99* | 100 110 | 85 85 | 75 75 | 100 100 | - |
インターナショナル・グラデュエイト (International Graduate)
「インターナショナル」学生としてカナダ国内の学校を卒業証書等を得て「グラデュエイト」し、ジョブオファーを取得した卒業生が対象となるカテゴリーです。
ドローイング実績
SI : Skilled Immigration 州で推薦⇒移民省運営のEEを介さずに永住権手続きとなるストリーム
EEBC : Express Entry British Columbia 州で推薦⇒EEで使える600点が付与⇒永住権のストリーム
時期 | 2021年 | 2020年 | 2019年 | 2018年 | 2017年 | 2016年 |
---|---|---|---|---|---|---|
12月下旬 | 88 92 | 95 99 | 99 103 | 95 95 | 75 75 | 80 80 |
12月上旬 | 83 86 | 95 97 | - | 95 95 | 75 75 | 80 80 |
11月下旬 | 82 83 | 94 93 | 101 103 | - | 67 67 | 70 70 |
11月上旬 | 80 80 | 94 93 | 100 102 | 90 90 | 67 67 | 70 70 |
10月下旬 | 78 78 | 94 93 | 100 102 | 90 90 | 67 67 | 70 70 |
10月上旬 | 78 76 | 94 93 | 99 102 | 91 90 | 67 67 | 80 80 |
9月下旬 | 77 75 | 94 94 | 97 101 | 91 91 | 67 67 | 85 90 |
9月中旬 | 77 75 | 95 95 | 97 101 | 91 91 | 67 67 | 90 100 |
8月下旬 | 77 75 | 98 98 | 98 100 | 91 91 | 69 69 | 90 |
8月中旬 | 78 76 | 98 98 | 100 102 | 91 91 | 70 70 | 105 |
8月上旬 | 79 77 | 98 98 | 105 105 | 91 91 | 70 70 | 105 105 |
7月中旬 | 82 81 | 98 98 | 105 105 | 91 91 | 80 80 | - |
7月上旬 | 83 82 | 100 100 | 105 105 | 96 96 | 80 80 | - |
6月中旬 | 85 85 | 100 103 | 100 100 | 96 96 | - | - |
6月上旬 | 88 88 | 100 105 | 100 104 | 96 96 | 77 72 | 105 |
5月下旬 | 90 90 | 103 110 | 100 105 | 95 95 | 80 75 | - |
5月中旬 | 92 92 | 106 106 | 105 105 | 92 92 | 85 80 | - |
4月下旬 | 95 95 | - | 105 105 | 91 91 | 85 80 | - |
4月中旬 | 95 95 | 100 102 | 105 105 | 84 89 | 70 70 | 105 |
3月下旬 | 94 94 | 102 102 | 100 105 | 84 89 | 70 70 | - |
3月中旬 | 94 94 | 106 110 | - | 100 105 | 70 70 | - |
3月上旬 | 94 94 | - | 97 97 | 82 82 | 70 70 | - |
2月下旬 | 94 94 | 108 112 | 94 94 | 75 75 | 80 85 | - |
2月上旬 | 98 100* | 103 105 | 95 95 | 70 70 | 85 90 | - |
1月下旬 | 96 103* | - | 95 95 | 70 70 | - | - |
1月上旬 | 95 99* | 103 105 | 95 95 | 70 70 | - | - |
ヘルス・オーソリティ (Health Authority)
特定の医療機関すなわち「ヘルス・オーソリティ」にてジョブオファーを取得して働く人が対象となるカテゴリーです。
インターナショナル・ポストグラデュエイト (International Post-Graduate)
「インターナショナル」学生としてBC州内の大学院等で特定分野で「ポストグラデュエイト」教育を修了した卒業生が対象のカテゴリーです。
4カテゴリの比較まとめ
Skilled Worker | International Graduate | Healthcare Professional | International Post-Graduate | |
---|---|---|---|---|
Express Entry プログラム いずれかに適合 | EEBC〇必須 SI✖不要 | EEBC〇必須 SI✖不要 | EEBC〇必須 SI✖不要 | EEBC〇必須 SI✖不要 |
フルタイム +無期限 ジョブオファー | NOC「B」以上 | NOC「B」以上 | 指定施設での雇用 | ✖不要 |
BC州で働く権利 (就労ビザ) | 〇必須 | 〇必須 | 〇必須 | BC州に住む 意思と能力 を証明 |
関連職種での 就労経験 | ✖不要 | ✖不要 | ||
最低収入条件 | 〇必須 | 〇必須 | 〇必須 | BC州に住む 意思と能力 を証明 |
カナダの 合法ステータス | 〇必須 | 〇必須 | 〇必須 | 〇必須 |
最低語学条件 | 〇必須 | 〇必須 | 〇必須 | ✖不要 |
過去3年以内に BC州内の 大学等を卒業 | ✖不要 | 〇必須 | ✖不要 | 〇必須 |
州の規定内の 賃金オファー | 〇必須 | 〇必須 | 〇必須 | ✖不要 |
SI独自の2カテゴリー
上記で紹介したほかにも、スキルド・イミグレーション (SI) のストリームだけにある3つのカテゴリーがあります。
エントリーレベル・セミスキルド (Entry Level and Semi-Skilled :ELSS)
タイトルのとおり「エントリーレベル」と「セミスキルド」の2つがそれぞれ対象となるカテゴリーです。
「エントリーレベル」は、州の北東部の開発地域に居住するNOC CまたはDの職種 (エントリーレベル) で働く人が対象となるカテゴリーです。
「セミスキルド」は、観光業 / 接客業 / 長距離運送業 / 食品加工業の中で、さらに指定された業種が対象で、SI(スキルドイミグレーション)のストリーム内にはあるものの、対象職種はいずれもセミスキルドの職種にあたり、NOC BじゃなくCやDなのが特徴です。
いずれもジョブオファーは必須ですが、LMIAは不要です。
BC PNP テック (TECH)
これまで試行プログラムとして運営されてきたTECH系、すなわち技術職系やデザイナー、ウェブ関係の計34職種で仕事をする人を対象とするプログラムですが、2021年の6月から正式なプログラムのひとつとして存続することとなりました。
2017年5月の試行プログラム開始以来、6000名以上の移民を推薦した実績があり、いまもっともBC州が求め推している分野のひとつであると言えます。
上記の29職種に該当するNOCタイトルでジョブオファーを受け取る場合、雇用期間は1年以上 (365日以上) であること、申請時点で120日以上の有効期間が残されていることが条件となります。
ケアエコノミー(医療/幼児教育)
その他の優先職種
起業家移民 (Entrepreneur Immigration)
別記事で詳しく紹介したいと思います。
雇用主や企業の要件
コンサルなどを利用した代理申請について
移民コンサルタントや弁護士のような代理人に依頼して申請すること自体は、必ずしも求められるものでは決してないため、あくまでも申請者の任意となります。
代理人が作成した書類だからという理由で審査官が優先して目を通すというようなことは一切なく、すべて公正に取り扱われると明記されています。
語学条件
語学力の最低要件
申請者本人のみが対象となる最低条件で、同時に申請を行う配偶者や子どもなどについてはこの条件は特にありません。
Writing | Listening | Reading | Speaking | |
---|---|---|---|---|
IELTS | 4.5 | 3.5 | 4.0 | 4.0 |
CELPIP | 4 | 4 | 4 | 4 |
TEF | 145 | 121 | 181 | 181 |
各プログラムでの得点対象
Skilled workerカテゴリーを利用する場合は、語学力による点数配分が明確に定められているため、加点の対象となります。
申請プロセス
BC PNPを使った永住権取得までのプロセスは、おおまかに次のような流れで行われます。
登録について
まずはフルタイムで無期限のジョブオファーを入手 (インターナショナル・ポストグラデュエイトのカテゴリー以外) します。
その内容を元に、SIRSと呼ばれる点数計算システムを利用して点数を計算してみます。
これについては、詳しく別記事で紹介しています。
点数を把握したら、過去の招待基準の点数相場と見比べてみましょう。
こちらについても、過去のデータをまとめています。
いよいよBC PNPにオンライン登録します。登録自体は無料ですので、条件さえ整っていれば点数を気にすることなくトライすることもできます。
ただし登録は、番号受領後12ヵ月だけ有効と定められています。また、登録は1個だけしかできないので、別のプログラムを狙った重複した登録はできないようになっています。自分が狙えそうなカテゴリーをピンポイントで選択しましょう。
雇用主は変わらずとも、昇任や賃金の変更、解雇など雇用条件が一部でも変更になった場合には、その登録自体は有効のままですが、情報を更新する必要があります。
この情報変更の更新報告を怠ると、ノミネーション自体が取り消しに繋がる可能性もあり、そうでなくともBC州政府の次にある本番のカナダ移民局の審査の際に追及される可能性も十分考えられます。
また申請とは別に、就労ビザなどの滞在ステータスを維持する責任は引き続き本人にありますので、更新をするなどの手を打っていく必要があります。もし、申請期間中に就労ビザが期限切れになってしまった場合には、復行手続き (Restoration) を90日以内に行わなければ、これまでの申請との関連性が失われる可能性があります。時間に余裕をもって準備を進めていきましょう。
どちらを利用する方が絶対的に良いとは言えませんが、エクスプレスエントリーを利用できる条件が整っている場合には、EEのストリームの方が早く永住権を取れる可能性が高いので、申請料が高くても相対的にハッピーになる方が多いのではないかと思います。