カナダBC州で運転する方の誰しもが加入しているICBCの自動車保険ですが、2021年5月1日から「Enhanced Care」という名称で保険内容の刷新が行われました。
自動車保険をより支払いやすいものにしつつ、事故からの復帰に向けた手当てをより手厚くし、よりよいケアを提供すると銘打ったこの新プログラムですが、僕も含む多くのドライバーにとって、これまで払っていた保険料よりも安くなったことで差額分のRefundを受けて喜んでいることと思います。
しかし、保険内容に一部アップデートが行われていることをよく知らないと、知らぬ間に不必要な保険にお金を使っていたり、逆に入っていると思い込んでいた保険内容に入ってなかったりということが発生します。
これを機に、僕と一緒に保険内容をもう一度復習して、最良のプランになるように計画してみましょう。
保険金額の構成
ICBCの自動車保険、毎年結構な額を払っているイメージを皆さんお持ちのことと思いますが、実際に何にいくら払っているかでも何となく把握していますか?
ここで、保険料として納めている金額の構成について、おさらいしてみましょう。
支払額は大きく分けて、
- 基本保険料 (ベーシック)
- 追加保険料 (オプション)
- ナンバープレートの維持費
の3つの要素で構成されています。
基本保険 (ベーシック) となる部分の保険内容と保険料については、「Enhanced Care」に全員分が変更されています。これについて次の項目で詳しく紹介していきたいと思います。
Enhanced Careについて
「Enhanced Care」とは、2021年5月から運用開始されたBC州の自動車保険の基本保険内容のことで、加入義務項目となっています。この新サービスには全加入者が自動的に移行されています。
これにより、2020年には約$1,900だった年間の平均保険料が、平均約$1,500まで抑えられ、実に約20%ほどの節約が実現したと大々的に謳われています。
BC州での自動車保険は数社の競争制ではなく、ICBC独占体制であり、これしか利用できない選択肢のない我々利用者としては、安くなるに越したことはありません。しかし、なんで急に安くなり、何が変わったのかよく知らない利用者の方々も多いのではないかと思います。(この記事を作るまでの僕もそうでした。)
詳細について、ちょっとずつ紹介をしていきたいと思います。
Enhanced Careによりなぜ保険料が安くなるのか
この「Enhanced Care」への移行に伴って、なぜ保険料が安くなるのかというメカニズムについて順を追って紹介したいと思います。
これまでの「基本保険+追加保険」という構造については変更されていません。
しかし、補償内容が再度精査され、基本内容に含めるべきものとある必要がないものが整理されました。これにより、保険内容に無駄がなくなり、また基本内容自体が必要十分な内容として充実したため、本当に必要な部分かつ運転者が必要と感じるものだけを任意の追加保険内容にすることとしました。
具体的には、対人対物保障 (第三者責任) が基本保険に含まれたというのが安くなった理由の一つと言われています。かつては、85%にものぼる利用者が、事故を起こしたことで
- 他人をケガさせてしまう
- 経済的損失を負わせてしまう
- 相手方が法的な措置で自身の過失を追及する
- ケガや障害に関する補償を要求される
- 将来にわたって減少した収入の補填を要求される
といったことの不安からこの保険による補償を利用していました。
しかしこの「Enhanced Care」により、文字通り強化された基本保険内容として基本事項が既にカバーされるようになったことで、この追加補償が安く抑えられるようになったことが、保険料を下げられるようになった要因の一つと言えます。
また、経済的損失は訴訟等を通ずることなくICBCから直接補償されるようになります。
多くの人にとって保険料が安くなった分、更に上位の補償内容をオプションで追加することが出来るというのが安心ポイントです。
またICBCは、保険額の適正化を図る上で、次のような見直しも併せて行いました。
若者や運転歴の少ない運転者に対する保険額の見直し
これまでこうした運転者は、「事故のリスクが極めて高い」と考えられることから法外ともいえる高い保険料を支払って来ました。「Enhanced Care」の発足により彼らの保険料がよりリーズナブルに見直されています。
二輪車/季節的車両/地方での運転者に対する保険額の見直し
バイクやトレーラーなどの季節的に使用されたりされなかったりというような車両を運転する人や、比較的交通量の少ない地方をメインに運転する運転者に対しては、保険料が安くなるように設定されました。
基本保険内容
基本保険 (Basic Insurance) に含まれる補償内容
「Enhanced Care」への改定により、誰しもが加入する義務事項となる保険内容として次のようなものがあります。
Enhanced Accident Benefits (強化型事故補償)
自身や同乗者が事故でケガを負った際の、医療保障と治療、収入補償、個別治療支援、介助費用 (上限$4,974) 、葬儀代 (上限$9,130)などの補償です。これは、自身に過失がある事故の場合でも同様に補償されます。
働けなくなってしまった場合、年収の90%が上限額$100,000の範囲内で補償されます。
死亡保障はご遺族となる配偶者などに最少額として$66,987、カウンセリング費用も上限$3,818にて補償されます。
Basic Vehicle Damage (基本車両損害補償)
自身に過失のないもしくは過失が25%以下と判断された事故で車両が損傷した場合、ある上限金額まで車両及び恒久的に設置された装備品の修理を上限額$200,000まで補償するものです。この上限額で、BC州で走る99パーセントの車両の修理はカバーできると考えられています。
Third Party Liability (対人対物補償/第三者責任)
事故の責任が自身にあり、損害を被った相手方に非車両財産損害などの補償を受ける法的権利がある場合、もしくは州外を運転中に発生した事故に対して、最大$200,000まで補償するものです。
Underinsured Motorist Protection (相手方の不十分保険による損害補償)
相手方の過失による事故で、自身の保険請求に対してその相手方が十分な補償をもっていない場合、最大100万ドルまで補償するものです。
Inverse Liability coverage (逆責任補償)
カナダや米国の一部において、地域の法律によって「事故の原因となった人に対して責任を追及することが許可されていない」という場合、たとえこちらに過失がなく事故を被った場合であっても、責任のある相手方の保険を使用することができないという事態が生じます。こうした矛盾した状況を回避して運転者を保護するため、この「逆責任補償」を適用することができます。
Unlisted Driver Protection (非登録運転者による事故の補償)
BC州の保険では、車両ごとに誰が運転するかを事前にリストアップし登録しておくことが必要で、それに応じて保険料が変わるしくみになっています。これは、基本的にはもっとも保険料が高くなる運転者に合わせて保険料が決定されるため、リストに運転者を登録することで保険料が高くなることはあっても安くなることはありません。一方で、1人から2人になったからということで保険料が倍になるということでもありません。
こうした規定がある中で、リストに載っていない運転者が運転していた際に運悪く事故が起きてしまった場合にでも保険を適用できるようにする救済措置がこの「Unlisted Driver Protection」となります。
第三者責任に関する追加保険内容
Extended Third Party Liability (追加第三者責任)
自身に過失がある事故における対人対物補償です。
基本保険内容の中に含まれるようになったというのが「Enhanced Care」に変わった上での大きなアップデートであると言えますが、この追加補償「Extended Third Party Liability」の必要性がなくなったということではなく、引き続き重要です。死者が発生+物損が生じた場合、90%分の補償は死亡に対して行われ、物損分は残りの10%のみでの補償となります。その場合には事故によっては優に上限額を超えてしまうことも考えられます。
州外で運転をして、誰かの車両を壊してしまったまたは誰かにけがを負わせてしまった場合などは、追加でも保険に入っていることで安心することができます。
建物やフェンスや誰かの所有物にぶつかった場合など、州内であっても車両以外に対する損害の補償も行うことが出来ます。
以前のように、訴訟ベースのシステムに伴う高額な費用を補償する必要がなくなったため、以前よりもずっと安い保険料設定となっています。
衝突事故に関係する2つの追加保険内容
自動車やバイクなどが相手となる衝突事故に関しては、次のような2つの補償プランが設定されています。これらは並列の関係でなく、①の中に②が含まれるような包含の関係性となっていることから、同時に2つに加入することが出来ません。(そもそも不要です。)
それぞれの補償内容については、次のとおりとなっています。
Collision (車両修理補償)
自身の過失による事故も含む自身の車両を修理するための補償です。
修理費は一般的に高額なため、約8割の運転者が加入していると言われています。
後の項目で説明をしますが、別の追加補償項目である「Loss of Use」や「Extra equipment」の補償内容をこの「Collision」には付帯することができるのは一つの魅力だということが出来ます。
Hit and Run (当て逃げ補償)
当て逃げによる補償は、従来の基本プランには含まれていたものの、必要ないと考えている利用者も含む全利用者を一様に加入させることがフェアでないという考え方もありました。そのため、「Enhanced Care」への移行に伴う整理により、この基本保険内容からは外されました。
以前からBC州で保険に加入してきたドライバーにとっては、いつの間にか知らない間に補償内容から外れているということが発生する要注意項目です。
当て逃げ事故は一般に、相手が逃げてしまっているため、相手の保険を使えない=泣き寝入りとなるものです。引き続き必要性の高いとされる当て逃げに関する補償だけで入れるプランとしてこの「Hit and Run」が新設されました。
非衝突型の損害に関する追加保険
すべて含まれた総合補償タイプもしくは、部分的に選んで入る部分補償タイプがあり、どちらかだけ一方を選んで入ることができますし、不要なら加入しないこともできます。
Comprehensive (非衝突型損害の総合補償)
窓のチッピングに対する補償
小石などの跳ねによる窓の割れ修理は、免責額を支払うことなく無料で修理可能となりました。
この無料修理を利用するためには、次のような一定の条件があります。
Specified Perils (非衝突型損害の部分補償)
Comprehensive(総合補償)/Specified Perils(部分補償)の比較
その他の追加保険項目
下記の表のとおり、ベースとなる3つのオプション保険内容に対して追加が可能となります。
追加プラン | Collision (車両修理補償) | Comprehensive (非衝突損害の総合補償) | Specified Peril (非衝突損害の部分補償) |
---|---|---|---|
Loss of Use (修理期間中の損害補償) | 〇 | 〇 | 〇 |
RoadStar (ロードスター補償) | ✖ | 〇 | ✖ |
Roadside Plus (ロードサイドプラスパッケージ) | ✖ | 〇 | ✖ |
Extra equipment Sound and communication equipment (音響通信機器の搭載品補償) | 〇 | 〇 | 〇 |
Extra equipment Other permanently attached equipment (音響通信機器以外の搭載品補償) | 〇 | 〇 | 〇 |
それぞれの追加保険項目について、個別に紹介していきます。
Loss of Use (修理期間中の損害補償)
RoadStar (ロードスターパッケージ) / Roadside Plus (ロードサイドプラスパッケージ)
Extra equipment (搭載品補償)
まとめ
状況別の使用可能な保険内容とその上限額をざっと一覧にしてまとめると、次のとおりになります。
自身の過失割合:0%~25%の事故
自身の過失割合:25%~100%の事故
相手が逃げた事故
相手がいない事故/被災/盗難
おまけ:KZの加入内容を紹介
僕の自動車保険も3年目になり、無事故割引で$717も安くなったこともあり、年間保険料 (ミニマム) は次のようになりました。独占公社のBC州の自動車保険は高い高いと言われますが、意外ではありませんか?
ちなみにこれまでの保険料は、「Extended Third Party Liability (追加第三者責任)」だけは初めから2万ドルほどつけていたので初年度で1900ドル代、2年目からは1800ドル代と順調に下がっていき、3年目にして「Eehanced Care」に変更された影響もあるのか、同じ保険内容で1200ドル代まで下がりました。
このままでも全然十分な保険内容と言えるのですが、せっかく安くなったので安心するまでオプションを追加していこうと思います。そのためには保険内容をもう一度見直さないといけないなと重い腰を上げたのが、この記事を作った理由です。
そして僕が色々考えて導き出した僕なりの「最適」保険内容は次のようになりました。
上のプランを決めるまでに考えたこと
どうやってこのプランにすることにしたのか、僕の思考過程を紹介したいと思います。
まず、Extended Third Party Liability です。
基本保険の範疇で既に20万ドルまで補償されたことが大きく、このExtendの追加保険に入る意味は若干薄れました。それでも、万が一道路上の家屋や設備などにぶつかってしまった場合には、とんでもない補償額が予想されます。しかも、僕の車はやや大きいので、壊れる側というより壊す側かもと思ったのも理由の一つです。また、人身事故も併発した場合には、人身の補償に9割の補償内容が割かれることから、物損分への補償は非常に頼りなくなります。そこで、上限額10倍の200万ドル分程度の補償は必要と考えました。一方で、それを一段階引き上げて上限額300万ドルとすると、年間保険増額分は18ドル程度、月にして1.5ドル程度(実にコーヒー1杯分)だったので、躊躇せず大きめの保険内容としました。
次に、Collision です。
当て逃げは誰にも等しく起こり得るし、一方的な被害者なのに誰にも補償責任を追及できないという理不尽を僕は受け入れられませんので、少なくとも Hit and Run には入りたいと考えました。
しかし上の「まとめ」の項目でも分かるように、自分に過失がある事故では自分の車の修理代を補償してくれる枠組みが一切ありません。自分の車はもう結構古いから、と言っても修理にはお金は掛かりますし、自分の過失だったからと言って高額な修理費を払うのをやめて車なしの生活になったり、またはこの機会に新しい車を買おうという余裕もありません。そこで、Collision の加入は必須と考えましたが、次に免責額の決定に悩みます。
衝突事故は気軽に起きてはならないイベントですし、もしそうなったときに1000ドルでも十分許容範囲内と言うことはできますが、その際に500ドルだけの支払いで済むなら助かります。
しかも、その差はたった23ドル、月にして2ドル程度ということで断然許容範囲内です。
あと追加で21ドルを払うことで免責額300ドルになりますが、ジャンプ分が比較的大きい割にそれでも結局300ドルは払わなくてはならないので、僕は「10年間事故を起こさないことで差額の200ドル分を貯める」ということを誓いました。
最低限の補償は確保しながらも気軽に事故を起こせない緊張感を残した結果の保険内容です。
そして、Comprehensive です。
僕の車は珍しいタイプなので比較的人気があり、メインにこれを盗難に対する補償と位置付けました。また、街を走っていると、よく窓を割られ車上荒らしに遭ったまま、ビニールでとりあえず窓を覆って走っている可哀そうな車をよく見掛けます。残念ながらそういったことは頻繁にあるので、そういった意味合いでも必要性を感じます。
また、高速道路ばかりで大型車も多く走っていて、小石飛び跳ねの窓割れのリスクは高いと感じています。条件がそろえばですが、大きく拡大する前に無料で修理できる安心感は大きいと感じます。
動物との衝突や自然災害での被害はあまり心配していませんが、パッケージになっているのであるに越したことはないものだと思っています。
免責額ですが、非衝突型の損害や盗難などは、自分がどれだけ気を付けていてもいつ起こるとも限らないものですし、自分に落ち度がないのに払う修理費ほど悲しいものはないので、惜し気なく免責額が最小となる$300を選択しました。保険を使っても次回更新時の保険料が引き上げられることがないので、比較的気軽に保険請求したいとのいうのも理由の一つです。
Extra equipment (Other permanently attached equipment) は、何故か最小設定可能額である上限額$5,050に設定すると増額分がたった$3となったので、追加したオプションです。(バグ?)
永久に固定するの定義として溶接などだけでなくボルト固定も含まれるので、適用できるか分かりませんが、僕の車はオールペイント車両ですし、タイヤやホイール、ルーフラックなどほとんどの部品の盗難や各種被害に対応できると思い、追加しました。たった3ドルですしね。
オーディオ関係やスピーカーなども社外品ではありますが、一般的ですので音響装置の方の追加補償は+14ドルでも不要と判断しました。