オーストリアで生まれ、カナダで成長し、最初の飛行機には「KATANA」の名がつけられた航空機シリーズ。
これを日本人の僕たちがカナダの地で訓練に使うことは感慨深いものがあります。
しかし、やはりセスナなどのベストセラーに比べるとお目にかかる機会も非常に少ないですね。
本記事は、そんなダイアモンドエアクラフト社の飛行機について、機種の紹介や、機体の特徴や魅力を踏まえて紹介していきます。
ダイアモンドエアクラフト社とは
ダイアモンドエアクラフト社は、オーストリアを拠点とする軽飛行機メーカーです。
1981年に航空機設計士のウルフ・ホフマン氏により、創業されました。
軽飛行機は、飛行訓練に使われるだけでなく、測量や空中撮影、レジャー用など幅広い用途で使用されています。こうした年間3兆円規模の産業と言われるいわゆる「ジェネラル・アビエーション」をターゲットとした航空機メーカーとして、シーラス社、セスナとビーチを擁するテクストロン社に次いで世界第3位の規模で、累計5000機以上のダイアモンド社の航空機が世界中で飛行していると言われています。
会社施設は、オーストリアにある本部の他に、カナダのオンタリオ州ロンドンと中国の新昌に置かれています。
2人乗りのDA20から、7人乗りのDA62までの幅広い用途で使用されるピストン機を製造しています。
特殊用途機の開発にも積極的に取り組んでおり、DA42MPPやDA62MPPといったモデルは、軍用の偵察監視を目的としてイギリス空軍が導入し、実戦にも投入されています。その他にも、ロシア軍やタイ軍など複数の国が軍用機として納入を行っています。
また、軍用練習機としての使用が期待されるタンデム式のターボプロップ型アクロバット機「DART」も間もなくロールアウトされる見通しです。
近年は、無鉛ジェット燃料を使用するピストンエンジンを搭載する機体や、電気エネルギーを利用した機体など、環境問題を意識した機体の開発にも精力的に取り組んでいます。
会社の歴史
80’s モーターグライダーの製造から会社設立
90’s 飛行機製造にシフトし事業拡大
00’s 機種の拡大
10’s 中国資本化とさらなる開発の拡大
飛行機の種類
モデル名の付け方のルールと、愛称は次のとおりです。
搭乗できる乗員数とエンジンの数がモデル名の基本になっているんですね。
頭に必ずつく「DA」はダイアモンドエアクラフトと、そのままですから、モデル名を聞いただけで、どのモデルか判別がつくのは良いですね。
DA20シリーズ
DAファミリーの長男にあたる、最初のモデルがこのDA20です。
モーターグライダーとしてファイバーグラスで作られた1人乗りのH36 DIMONAですが、これを改造して2人乗りにしたモデルがHK36R SUPER DIMONAでした。
これを飛行機にするために、翼長を切り詰め、フラップを搭載し、前脚式に変更した最初の飛行機がDV20です。
DV20とほとんど同じですが、カナダに専用工場を建造して増産、そして北米の市場に向けて1994年に売り出されたモデルが、このDA20です。実に40ヵ所にもわたる改善が行われたと言われています。
DA20A1 KATANA
DV20と基本的に同じ設計です。DV20も含め、このモデルにはKATANAの愛称がつけられました。曲線を持ちながらも、どこかシャープな印象のある姿は、刀のようであるかもしれません。日本人には馴染み深いですね。
機器を搭載しやすいプラットフォームなため、必要な機器を搭載してIFR飛行の認証を得らことも可能と思われましたが、ファイバー製の機体に対する「被雷への耐性」の低さを指摘され、認可されなかった経緯があります。
AVGASを使用する80馬力のROTAX 912エンジンを搭載し、決してパワフルとは言えませんが、2人乗りのVFR飛行教育には十分な性能を誇っています。
1999年には、ヨーロッパ市場向けにエンジンをROTAX 912SにアップグレードしたDA20-100をリリースしましたが、いずれも2010年までに生産が終了し、現在カタログに残っているのは、次で紹介するDA20-C1だけになりました。
DA20C1 ECLIPSE/EVOLUTION
1998年に、DA20A1からエンジン換装をしてパワーアップしたDA20C1がリリースされ、EVOLUTIONとECLIPSEの愛称がつけられました。
125馬力のコンチネンタル製固定ピッチIO-240-Bエンジンを搭載し、それまでのDA20A1 KATANAの80馬力と比較すると、実に50%以上ものパワーアップを実現しています。
一方で、このエンジン換装に伴って増加した重量70ポンド分を修正するため、あらゆる改造がなされます。
まず、エンジンの大型化に伴い、重心を後方に移動させる必要が生じました。
バッテリー搭載位置を座席後方にある荷物スペース下に移設し、主翼の取り付けも若干後方に下げて調整を行っています。
また、重々量化により失速速度が大きくなってしまったため、スロッテッド・フラップを導入して45ktの失速速度を維持したり、地上での制動力強化のためにブレーキの強化が図られています。
2009年にGarmin G500を計器オプションに追加するなど、さらなる発展を続けており、DA20シリーズの唯一の現行生産モデルとして生産されています。
DA20C1 EVOLUTIONは飛行学校での訓練用機材として特化して設定されたモデルで、後方座席には窓がついていません。
DA40シリーズ
1999年にリリースされたDA40シリーズは、同社初の2列座席で4人乗りのモデルです。
キャノピーはこれまで前から後に開くタイプでしたが、同モデルは後席があることから、後ろから前に開くタイプを採用しました。後席に入るためのハッチは、左側のみに設置されています。
2000年にはライカミング社のAvGasエンジンを使用するDA40-180、2001年にはジェット燃料を使用するDA40 TDIがをリリースされました。
2010年にはダイアモンド社の姉妹会社のオーストロエンジン製の169馬力ジェット燃料エンジンを搭載するDA40NGが登場しています。
現行モデルは2タイプで、このDA40NGと、180馬力のAvGasライカミング製エンジンを搭載するDA40XLTのみになっています。
2013年には、セスナの傑作機C172に次ぐ、世界第2位の4人乗り単発機になりましたが、2016年にパイパーアーチャーがその座に復したことで、長くは続きませんでした。以降は、シーラスSR20などの登場により、シェアを分け合うことになっています。
DA42シリーズ
2002年に発表された同社初の4人乗り双発機で、ディーゼルエンジンを搭載しています。全世界でこれまでに600機以上をセールスした実績があります。
格納式の脚を装備しているのが特徴的です。
キャノピーは、DA40と同じく後方から前方へ開くタイプで、後列への進入は、左側のみ開くドアから入ります。
2004年にディーゼル飛行機としては世界初のノンストップ北大西洋横断を12.5時間掛けて達成しました。
軍用機としての派生や無人機化のベースにもなっています。
ちなみに、当ブログタイトルのロゴに付いている飛行機のシルエットはDA42だということにお気づきでしたか?
その他のモデル
DA62
セスナ社の205や206シリーズ、ビーチクラフト社のバロンB58などに対抗すべく開発された2015年リリースの6人乗り双発機で、ジェット燃料を使用する各180馬力のオーストロAE330エンジンを搭載しています。
軍事使用を開発当初から主眼に入れているため、海上偵察機などに適用可能なプラットフォームとしての活躍が期待されています。
DA50
内装を豪華にして5人乗りにしたモデルで、同社の単発機では初の格納式脚を装備しています。コンチネンタル製ディーゼルエンジンを搭載し、300馬力の怪力を誇ります。
https://www.avweb.com/aviation-news/diamond-flies-retract-da50/
DART
偵察訓練機として開発されたターボプロップ機で、DARTとはDiamond Aircraft Reconnaissance Trainerの略です。
450馬力と550馬力の2モデルの怪力タービンエンジンの採用もさることながら、タンデム式の座席配置は同社初となります。
+7Gまで耐えられるアクロバット仕様で、その名の通り偵察訓練機としての使用の他に、カメラハッチの活用やターレット式カメラの活用による実戦的な使用も期待されています。
僕がダイアモンドをオススメする5つの理由
そんな僕は、カナダでの訓練機として次の5つの理由でダイアモンドを選びました。
訓練費用が相対的に安い
訓練費用は、免許取得を目指し奮闘する学生にとって、大きな問題となります。
現在ではセスナのスカイホークJT-A、パイパーのアーチャーDXなどディーゼル機のモデルはいくつかリリースされていますが、当初からディーゼル機をオプションにしているダイアモンド機は、AvGasが手に入りにくかったり、高価なヨーロッパにおいて特に販売数を伸ばしました。
ディーゼルエンジンは、燃費がよく、また燃料費の安いディーゼルを使用するだけでなく、一般に空港で普及しているジェット燃料を使用することができる点が画期的で、これにより選択肢に入る場外飛行場の数が増えて運航の幅が大きく広がることになったと言えます。
燃料について言えば、従来機より選択肢が多くなったことが大きな利点になりますが、機体の使用料で言うと、機体が新しい場合が多く、また初期導入費用も大きいことから、相対的に安くなっている古い機体に比較して、総合的にみると驚くほど安くはなっていないというのも事実です。
シェル式ボディによるスポーティな外観
従来機は、フレームと外皮を組み立てて強度を維持する構造を採用していることがほとんどでしたが、ダイアモンド社の航空機は、複合材の導入により、流線形の形状を手に入れることに成功しています。
個人所見になりますが、スポーティーな形状がカッコいいですね。
また、シェル型のボディー形状を採用したことで、衝撃が発生した際にも、乗員が居るメインのシェルはしっかりと守られることから、高い安全性が示されています。
優れた運動性能と訓練志向
ダイアモンド機は、従来機と比較して運動性に優れて訓練向きであると評価されています。片手での操作を前提に設計された軽いスティックでの操作により、繊細な操縦感覚を身に付けることができます。
エルロンとエレベーターがそれぞれ、ワイヤーではなくプッシュロッドを使いスティックと連結されているため、特にロールとピッチはクイックな挙動を実現しています。
一方で、突風や乱気流への反応もやや感じやすいのが特徴です。
訓練は操縦技術を学ぶだけでなく、運航を通じて安全管理についても学ぶ機会となります。その中で、特に重要なのが、見張りです。
特に小型機が多数飛行する人気の飛行学校が集まる飛行場の周辺や訓練エリアでは、多数の小型機が飛行します。キャノピー式で視界の広い風防により、見張りが非常にしやすくなっています。
豊富な機種ラインナップ
単発機と双発機の両方を扱っているため、訓練の進捗に応じて機種を変更する際に、基本的なコンセプトと設計が共通なため、その移行が比較的容易です。
特に、単発機だけでも、DA20A1とC1、DA40が選べることで、2人乗りにするか4人乗りにするか、最新鋭の計器を搭載したモデルか従来型かを訓練やレンタルの際に選べるのが特徴で、運航の幅が広がります。
グラスコックピットへの対応したモデルもあり、現代式のVFRやIFR飛行の訓練を効率よく行うことができます。
比較的容易な取扱い法
低翼機のため、地上にあるときは取扱いが比較的容易です。
特に高翼機で給油口が翼上にあるセスナ機に比べ、地上から簡単に手が届くところに給油口があるダイアモンド機は、給油作業や各種点検などの取扱いが容易と言えます。
万が一冬場に霜取りや除氷をする必要がある場合でも、脚立などを準備する必要もなく、また移動の要があっても地上では一人で簡単に押すことができます。
訓練で取り扱う学校
カナダ
BC州の認定校で、ダイアモンドエアクラフトを所有している学校は3校あります。
Professional Flight CentreとChinook Helicoptersは双発機の訓練用にDA42を導入していますが、単発機はセスナがベースになります。
Sea Land Air Flight Centreはダイアモンド機だけを取り扱っている学校で、双発機のDA42はもちろん、単発機のDA20やDA40も扱っています。
オンタリオ州のロンドンには、ダイアモンドエアクラフト社の直轄訓練校であるDiamond Flight Centreがあり、訓練機材として同社の多数のラインナップがなされています。
日本
福島空港で運航を行うアルファーアビエィションや、調布空港で運航を行うアイベックスアビエイションがDA42を所有しているほか、個人所有や法人所有でDA40やDA42が数機が飛行しています。
ダイアモンドvsセスナ
ダイアモンド社のエントリーモデルで、訓練費用的にも最も経済的なDA20A1 KATANAと、訓練機のベストセラーで知らぬ人のいない傑作機セスナC152で簡単な比較をしてみます。
比較項目 | ダイアモンドDA20A1 | セスナC152 | 備 考 |
---|---|---|---|
製造年 | 1994年 | 1977年 | 新しいと機体価格も高い |
販売機数 | 1000機以上 | 7500機以上 | 多い=売れてる=実績がある |
燃費 | 1時間あたり 4.3ガロン | 1時間あたり 6.0ガロン | 燃費が良いに越したことは無い |
搭載人員 | 2名 | 2名 | 同じ |
翼形状 | 低翼機 | 高翼機 | 高翼機は下方を見やすい |
運動性 | スピンなど課目 はしやすい | 落ち着いている | 好みの問題 |
操縦桿 | スティック式 | 操縦輪式 | これも好み |
座席 | 固定式 (ラダーは可動) | 可動式 (ラダーは固定) | 固定:体格を選ぶ 可動に越したことは無い |
空間 | 最小限 | 余裕がある | 広い方が快適 空力的には無駄がない方が良い |
視界 | キャノピー式 | 自動車的 | 見張りは安全に直結 広いと夏場は暑くなる |
同じように思われるこの2機種でさえ、タイプがあまりにも違うため、なかなか比較しにくいのがお分かりいただけると思います。
日本ではまだまだ「小型機=セスナ」と言われるほど、セスナの認知度はまだまだ高いですが、カナダを含むジェネアビ業界の活発な国々においては、セスナだけじゃなく選択肢はたくさんあることも知ってもらえたらいいなと思います。
訓練機としてのチョイスであれば、結局は好みの問題になるかと思います。
しかし僕は、この将来性を感じるヨーロッパの魂を持った航空機メーカーに期待していて、これからも乗っていきたいと思っています。