搭乗員の疲労 (勤務/休養) について
搭乗員の疲労は航空安全に直結します。
搭乗員の疲労管理 (Fatigue Management) については、従来よりカナダ航空規則 (CARs) 第700.19項から第259項までに規定されていますが、2018年12月12日にこれに関する大きな動きがあり、カナダ官報第2部において、パイロットの飛行勤務関連規則に関する変更に関して記載がなされる、その内容が航空サーキュラーとして発行されました。
規範的な部分と、実践的な部分に分けて規定されています。
規範的な部分
会社が守る最大の
- 労働時間 (hours of work)
- 飛行時間 (flight time)
- 飛行勤務時間 (flight duty periods)
会社が守る最小の
- 休養時間 (rest periods)
- 非勤務時間 (time free from duty)
実践的な部分
会社が守るものの中で各個のフライトに対して適用されるもので、TC未公認ではあるが、疲労リスク管理システム (FRMS) などを使って管理するもの。
疲労リスク管理システム (FRMS)
カナダ運輸省 (TC) が公認するものではないが、705運航、704運航、703運航だけでなく702運航にも適用される。このシステムの要件については、以下のサーキュラーで定まっている。
「Fatigue」に関する記載
AIM
AIM AIR 3.8では「FATIGUE」についてこのように書かれています。
疲労は反応時間を遅らせ、集中力を低下させ、注意の誤りにつながります。
最も一般的な原因は、休息不足、睡眠不足、過労です。
疲労は、貧血、睡眠時無呼吸、インフルエンザ、風邪などの一般的な病気だけでなく、ビジネスのプレッシャーや経済的または家族の問題などの他のストレスによっても悪化する可能性があります。
パイロットは、急性または慢性の疲労が運動能力と判断力に及ぼす微妙な影響を認識し、これらのいずれかが存在する場合は飛行を避ける必要があります。
パイロットは、疲労を防止するために睡眠管理も行う必要があります。飛行していないときでも、疲労や眠気に悩まされることが多いパイロットは、医療関係者に相談し徹底的な診察を受ける必要があります。
退屈と疲労は両者相互に作用しあって悪化させる関係です。退屈を克服する方法の1つは、対地速度と燃料消費量を頻繁にチェックし、精神的に活発な状態を保つことです。
代替飛行場に行くにはどうするかを計画したり、関連する飛行場のチャートを調べたりすることも役立ちます。
AIM AIR 3.8「FATIGUE」
IPM
計器飛行マニュアル「IPM」の1.3.3では「FATIGUE」についてこのように書かれています。
慢性的または急性いずれの場合も「疲労」は深刻な問題となります。特に、正確さと集中力が必要不可欠となる計器飛行において、疲労は注意力や飛行全体の精度低下、重大な判断ミスをもたらす可能性があります。コクピット内での長時間の不快な状態、食生活の悪さ、体調不良があればより悪化することになります。睡眠不足やうつ症状に発展することもあるし、逆にそそれ自身が原因である場合もあります。多くの場合、悪天候下において、あとはもう計器進入で着陸するだけ、という最終飛行のときが最も危険と言われています。
IPM 1.3.3「FATIGUE」
会社の管理義務 700.20
全ての航空会社は、「Monitoring System」と呼ばれるシステムを整備しなけばならず、搭乗員の飛行時間や勤務時間、休養時間についてモニターする義務があり、システムの詳細については、社内運航規程 (COM) の中で示されることになっています。
次の項目について、記録の保管義務が定められています。
会社の記録保管義務
- 全飛行時間
- 各飛行勤務時間の開始終了時刻と時間
- 各勤務時間の開始終了時刻と時間
- 各休養時間の開始終了時刻と時間
- 全非勤務時間 (free from duty)
誰が責任をもって規定を守るのか
会社?搭乗員個人?誰かひとりの責任ではなく、皆が守らなくてはいけません。
航空会社には、上記700.20の規定に基づき、飛行時間や勤務時間を管理するためのシステムの保有が義務づけられています。また、700.28では搭乗員に最大時間を超えるような飛行勤務時間をアサインしてはいけないように定められており、そういった意味で会社に責任があるのは間違いありません。
しかし、一方で同じく700.28では、搭乗員個人がそれを受け入れてはいけないということも規定されています。ですので、「機長が守るもの」という考えはここでは出てきません。
もっと広い視点でとらえると、運航管理責任者の責任として、安全な飛行運航を行うことが723.07で示されています。もちろんこの「安全」には、搭乗員が規定以上の勤務をさせられないことが含まれますので、運航管理責任者にも責任があると言えます。
用語の定義
搭乗員 (Flight Crew Member)
飛行中(During Flight Time)パイロットまたは飛行機関士として活動することをアサインされた搭乗員
新規追加
勤務可能態勢 (fit for duty)
疲労、アルコール/薬物消費、精神的/肉体的状態により、各搭乗員として活動する能力が損なわれていないこと
配置移動 (positioning)
航空会社の要請により、搭乗員がある地点から別の地点へ移動すること
(会社指定の宿泊施設や搭乗員の自宅などへの往復の移動は含まれない)
削除
flight deck duty time
flight duty time
飛行時間 (Flight Time)
「Flight Time」とは、機体が離陸を目的として自力で移動開始した瞬間からエンジン停止などで飛行終了まで。
※「Air Time」は、機体が地表面を離れた瞬間から次の着陸地点で再度地表面に接地する瞬間まで。
最大飛行時間 (Maximum Flight Time) 700.27(1)
最大飛行時間の管理責任
飛行時間について、法廷の範囲内で勤務が割り当てられているかを追跡する責任があるのは、会社だけ個人だけではなく両方です。
規則は明確で、会社はこの制限を超過する飛行のアサインをすることできず、搭乗員個人はそれを受諾できないというものです。いくつか例外はありますが、航空会社営業許可証 (AOC: Air Operator Certification) やカナダ航空規則 (CARs) 第720.16項に詳細の記載があります。
適用される飛行時間
計算にあたっては、全ての飛行時間を合計して算出します。会社1つの勤務に関する飛行時間だけではなく、個人が関連するすべての飛行勤務が適用対象で、増強クルーとしての飛行も含まれる。
最大飛行時間 (Maximum Flight Time)
- 112時間 連続28日間中 (新規追加項目)
- 300時間 連続90日間中 (変化なし)
- 1,000時間 連続365日間中 (1200から減少)
操縦士1名の飛行のみ
- 8時間 連続24時間中 (新規追加項目。IFR/VFRによらない。)
常に過去27日間、過去89日間、過去364日間で何時間飛んでいたかを把握していなければ、今日何時間の飛行ができるかが分かりません。会社がアサインの上で把握責任はあるが、受諾するのはパイロットの責任です。
例: 過去27日間で103.4時間飛行していたら、今日飛べるのは112 – 103.4 = 8.6時間
過去89日間で290.2時間飛行していたら、今日飛べるのは300 – 290.2 = 9.8時間
過去364日間で986.7時間飛行していたら、今日飛べるのは1,000 – 986.7 = 13.3時間
このように認識をした上で、その日の飛行勤務を開始する必要があります。
飛行勤務時間 (Flight Duty Period: FDP)
Dutyすなわち仕事をしている期間(時間)として新たに定義された概念で、飛行時間(Flight Time)に加え、次に示すような時間も対象。
FDPの開始要件 (いずれか早いもの)
- 飛行開始前の会社指定作業
- 最初の飛行開始
- 配置移動を開始
- スタンバイ開始
夜間終了勤務/夜間勤務/早朝開始勤務の定義
夜間終了勤務 (Late duty)
開始: 指定なし
終了: 24:00から01:59までの間 (時刻帯順応を加味)
夜間勤務 (Night Duty)
開始: 13:00から01:59までの間
終了: 02:00以降 (いずれも時刻帯順応を加味)
早朝開始勤務 (Early duty)
開始: 02:00から06:59までの間 (時刻帯順応を加味)
終了: 指定なし
時間帯に関する定義
サーカディアン・ロー時間帯
(WOCL: Window of circadian low)
身体的低調期。順応時刻帯を基準として、02:00から05:59の時間帯。
飛行におけるパフォーマンス低下が予期され、覚醒度が大きく低下する身体的低調期で、脳が眠気を誘発するため、飛行の制限や考慮が必要になる時間帯。
時刻帯順応 (Time Zone Acclimatization)
CARsで「搭乗員のバイオリズムが現地時刻帯に順応すること。」として新たなに定義された用語で、在いる場所ではなく、順応地域の時刻帯 (通常本拠地の空港) を基準に考えられるようになりました。これまで搭乗員は到着した時刻帯に順応しなければならなかったので、これが明示されたことは重要です。
時間に順応すること 700.19(2)
搭乗員が時差のある新たな場所に移動すると、時差1時間に順応するのに24時間の割合で時差による概日リズムの乱れから回復するのに十分な時間を要すると定義されている
「Acclimatized」の考えの使い方
最大飛行勤務時間(FDP)や休養時間を算出するための各種一覧表を使うにあたって、まず「時刻帯順応を加味して」という記載があるかどうかを確認します。基本的に、次のいずれかに当てはまる場合は該当します。
本拠地でなく現在地での時刻帯に順応する基準 700.28(5)
- 時刻帯差が4時間未満の新時刻帯で72時間滞在 (必要な休養時間を含む)
- 時刻帯差が4時間以上の新時刻帯で96時間滞在 (必要な休養時間を含む)
- 日ごとの順応速度は、別の時刻帯で24時間滞在する毎に1時間ずつ順応
最大飛行勤務時間 (Maximum Flight Duty Period)
- 実際に飛行している時間の飛行時間を元に規定した上記の制限に加え、働く時間、すなわち飛行勤務時間に対する制限もあり、条件によって9時間から13時間の間で定められている。
飛行勤務時間の開始
- 勤務を開始した瞬間
(時刻帯順応に関する例外規定も適用)
最大FDPの時間計算法
- 最大飛行勤務時間は、次に示すいくつかの要素を使って計算する。
最大FDPの計算要素
- 一日の平均飛行時間 (30分未満 / 30分以上50分未満 / 50分以上)
- 一日のフライト数
- 飛行勤務開始時間
- 日中のVFRか
- 時刻帯順応の加味
増強クルー (Augmented Crew) の最大FDP 700.60
- 上の表で示される「増強クルーに対する最大FDP」は、3回以下のフライト数となるFDPのみに次の条件にすべて合致した場合に適用される。
3クラスの休養設備 (rest facility)
クラス1 休養設備
バンクもしくは以下のような場所に設けられたその他の水平表面
水平表面の要件
- フライトデッキや客室とは別に設置
- 室温や照明のコントロールができる
- 騒音やその他の妨害を最小化すること
クラス2 休養設備
以下のような場所に設けられた完全に横になって眠れる座席
横になって眠れる座席の要件
- 光や音を低減できるようカーテンやその他の方法で乗客とは離れて設置
- 携帯酸素装置が備え付けられている
- 乗客や搭乗員による妨害を最小化すること
クラス3 休養設備
- 垂直位置から40度以上倒せるレッグサポート付き座席
- 休養設備での休養時間も勤務時間に含まれる
- 最初のフライトが105分未満の場合のみ2回目以降のフライトにクルー追加も可能だが、全員同じ場所で勤務を終えること
- 追加クルーのうち少なくとも1名は、離着陸時にフライトデッキにいること。ただし、2回目以降で追加した場合の最初のフライトは適用外
- 上空休養は、高度10,000ft以上かつTODの15分前までだけ
- FDPが延長された場合の休養時間は、次のうち最も長い時間
FDPが延長時の休養時間
- 延長されたFDPと同時間
- 適切な宿泊施設で14時間
- 本拠地で終了した場合自宅で16時間
長距離飛行
長距離飛行 (Long-range Flights) 700.61
長距離飛行に関する規定 700.61
- FDP内にWOCL(window of circadian low)にかかる増強クルーなしの運航の場合、7時間以上のスケジュールされた飛行の後に行わないこと。
- 同一搭乗員により引き続き7時間以上の飛行後に搭乗員のWOCLにかかる追加飛行を運航させるためには、疲労リスク管理システム(FRMS) が必要。
- 「positioning」や「deadheading」といった勤務のための配置(移動)など、勤務の定義に合致するすべての活動は搭乗員の勤務時間としてカウントされる。
7時間以上の予定飛行後に、同一クルーでWOCLにかかる飛行をさせる場合には、増強クルーを設定しFRMSが必要
超長距離飛行 (Ultra long-range flights) 700.62
超長距離飛行 (Ultra long-range flights) に関する規定 700.62
- 飛行勤務時間 (FDP) 最大18時間
- 飛行時間 最大16時間
- 飛行時間 16時間を超えるような超長距離飛行の運航を計画する場合は、疲労リスク管理システム(FRMS) が必要
最大労働時間数 (Maximum Number of Hours of Work) 700.29
- いかなる勤務、労働は、飛行の有無に関わらず労働時間としてカウントし、最大労働時間以下の時間になる必要がある。
最大労働時間数
待機関連の労働時間数の計算法
休養期間 (rest period)
新たに定義された休養に関する用語
休養時間 (rest period) についてCARsで新規に用語の定義が追加されました。
休養時間 (rest period)
航空会社が提供する適切な宿泊施設への往復移動時間を除く、搭乗員が勤務しない連続期間
本拠地夜間休養 (Local Night’s Rest)
休養場所: 時刻帯に順応した場所
休養時間: 9時間以上
適用期間: 22:30から09:30までの間
非勤務時間 (single day free from duty)
勤務に従事しない時間
開始: 最初の本拠地夜間休養
終了: 次回の本拠地夜間休養
飲食休憩 (Nutrition Break) 700.37
飲食休憩 (Nutrition Break) 700.37
- 会社は6時間の飛行勤務時間 (FDP) につき、15分以上の飲食休憩を与えること。
- 休憩中の食事や飲み物の提供は、あくまで航空会社の裁量であるものの、カナダ労働法の労働安全衛生 第2部125(1)(j)項にて、飲料水提供義務がある。
最小休養時間 (Minimum Rest) 700.40
本拠地 (home base) の定義 AC 700-047 700.36
- 「搭乗員が飛行勤務または配置移動について勤務開始するために通常出勤する場所」としてCARsで新規に定義された概念
- 会社は搭乗員個別にこの「Home Base」を指定することになっており、月や日によって変わるといったことがないよう、ある程度の永続性が必要
- アサインは1箇所だけで、搭乗員が籍を有する場所によらない
- 航空会社は通常、本拠地において適切な宿泊施設を搭乗員に提供する必要はないが、会社と搭乗員が契約上の合意を有する場合には、そのようにする場合も可
- 本拠地における現地時間が、搭乗員が最初の勤務時間を開始する際に「順応」の基準点となる
- 搭乗員は「勤務に適合している」ことを報告する必要があることから、時刻帯の異なる場所での休暇から復帰して勤務する場合、本拠地への時刻帯に順応することについても考慮する必要がある。
- 居住地から本拠地に通勤している場合でも、順応の基準値は本拠地である
追加休養 (Additional Rest)
- 休養の追加に関する規定は、同時に複数の項目を考慮できる可能性がある。
破滅的スケジュール (Disruptive Schedule) 700.41
- 新規則では、夜間勤務から日中勤務を行き来するような「破滅的な予定」の組み方について、適切な休養を入れるようになっている。
破滅的スケジュール (Disruptive Schedule) 700.41
- 夜間終了勤務/夜間勤務から早朝開始勤務へ、またその逆を行き来する場合は、通常の休養時間に加えて本拠地夜間休養をすること。
- 時刻帯が本拠地から4時間以上離れている場合や、大洋横断飛行に対しては適用外
時差と宿泊地による休養追加条件
本拠地外での時差による休養追加条件 700.42
- 時差が4時間の場合、適切な宿泊施設における連続11時間の休養
- 時差が4時間を超える場合、適切な宿泊施設における連続14時間の休養
時差とFDPの開始時間による休養追加条件
FDP開始から本拠地帰還までの時差による休養追加条件 700.42(2)
- 時差4時間 本拠地離隔期間36時間以上の場合、本拠地における連続13時間の休養
- 時差5~10時間 離隔期間60時間以下+FDPがWOCLを含まない場合、1回の本拠地夜間休養
- 時差5~10時間 離隔期間60時間を超えるかFDPがWOCLを含む場合、2回の本拠地夜間休養
- 時差11時間以上 離隔期間60時間以下の場合、2回の本拠地夜間休養
- 時差11時間以上 離隔期間60時間を超える場合、3回の本拠地夜間休養
複数回の特定時間帯にかかるFDPの場合の追加休養条件
規則の変更で新たに加わった休養の考え方の部分。
FDPの一部がWOCLに連続3回かかる場合 700.51
- 3回目の勤務時間後に1回の本拠地での宿泊
FDPの一部がWOCLに連続5回かかる場合 700.51
- 飛行勤務時間中に適切な宿泊施設における3時間のFFD
- 最後の勤務時間後に連続56時間のFFD (勤務からの解放)
飛行以外の勤務に関する追加休養条件
最大FDPを超えるFDP後の非飛行勤務(non-flying duty) 700.40(2)
- 1時間以上FDPを超過後の非飛行勤務 (配置移動以外) が対象
- 休養時間はFDP延長分と同時間分延長
FDPの延長に伴う追加休養条件
FDPの延長 700.63(3)
- 休養時間はFDP延長分と同時間分延長
- UOCが適用される場合もある
FDPの延長 (増強クルー) 700.60(7)
- 休養時間はFDP延長分と同時間分延長
もしくは適切な宿泊施設にて連続14時間のいずれか長い方
- UOCが適用される場合もある
フライトデッキ内での管理休養(Controlled Rest) 700.72
フライトデッキでの管理休養 (Controlled Rest) の許可条件
- 休養時間は45分以下
- 巡航中のみ
- 予定降下開始時刻より30分前までに完了
- 他の搭乗員は同時に管理休養を行えない
- 2名以上の搭乗員がフライトデッキに残ること
開始前の考慮事項
- 勤務内容を他の搭乗員に引き継ぐこと
- 休養中に実施すべき特定の職務内容を含む飛行ステータスについて確認すること
- 休養中でも起きる条件について確認すること
- 客室乗務員に開始と終了時刻を知らせること
終了後の考慮事項
- 管理休養中の搭乗員は、勤務中とみなされない
- 休養終了15分後まで勤務の付与は禁止
- 搭乗員が勤務に復帰したら、他の搭乗員による運航ブリーフィングを受けること
配置移動 700.43
- 配置(移動)とは、2週間のローテーションなどの飛行勤務またはその他の業務を遂行する必要がある場合に、会社が搭乗員を本拠地から別の場所に移動させること
- 飛行勤務のための「配置」に要した時間は飛行勤務時間(FDP)としてカウントされる
- 3時間を超えてFDPの延長が必要な場合は、次の条件で最大FDPを延長することが可能
配置移動に伴う3時間を超える最大FDP超過ができる条件 700.43(3)
- 搭乗員の同意が得られていること
- 7時間を超えないこと
- 3時間以下であれば、配置移動を理由とする最大FDPの超過は合意もなく可能ではあるが、次回のFDP開始までに次の時間分の休養時間を付与する必要がある。
最大FDPを超えるFDP後の配置移動(positioning) 700.43
- FDP超過時間が3時間以下の場合、合計勤務時間と同時間の休養
- FDP超過時間が3時間を超える場合、合計勤務時間と同時間+最大FDP超過分の休養
- 病気などで本拠地に戻る配置移動の場合、単に通常の「勤務」として記録 (FDPではない)
- 休養時間は上記要領で算出した場合でも、通常与えられる休養時間より短縮されることはない
予測外の運航状況 (UOC: Unforeseen Operational Circumstances) 700.63
予期していない運航上の状況の例
- 先が見えない=予期できない=不測の事態として、運航会社にはどうしようもできないもの
UOCに該当する例
- 天候の予測外の悪化
- 管制上の理由による遅延
- 機器の不具合 など
UOCに該当しない例
- 例: FDP終了後(着陸後)に、CIQ (税関/入国/検疫) における予定外の検査など空港の管理上の問題を理由に遅延が発生している場合は、勤務時間 (hours of work) としては考慮されるものの、UOCには定義されない。
機長判断 (Authority of pilot-in-command) 700.63(1)
- 飛行勤務開始の60分以内もしくは飛行中にUOCが発生した場合には機長は次の事項を考慮しなければならない。
UOC発生に際して機長が考慮する事項
- 搭乗員の疲労状況の判定
- 搭乗員の飛行勤務時間(FDP)の延長と短縮
- 搭乗員の休養の延長
- 最大FDPを追加後の飛行において、離陸後に(上空で)更なるUOCが発生した場合には、目的地または代替飛行場までは飛行継続すること
UOCによりFDTと飛行時間の上限を最大3時間引き伸ばせる4条件 720.17
- FDT延長後の最小休養時間が「延長されたFDT時間」と同時間以上追加されること
- 機長(PIC)は、規定の方法で会社に延長する「長さ」と「理由」を知らせること
- 会社は、次回の運輸省の監査が完了するまでの間、その受領した通知を保管すること
- 会社は、可及的速やかに運輸大臣に対し通知すること
最大の飛行時間とFDTに含まれる時間
- 飛行前後の業務に必要な時間
- 飛行自体(及び連続する複数飛行)
- 天候予察
- 便間の準備等の業務
- 運航に関する一般的なこと
分割飛行勤務に変更するオプションの考慮
分割飛行勤務への変更の条件
- 地上休養時間の開始前に変更を行うこと
- 搭乗員の疲労状況が飛行安全に悪影響でないと判断し、機長が同意すること
分割飛行勤務 (Split Flight Duty) 700.50(1)
- 飛行勤務時間(FDP)の期間中に適切な宿泊施設における60分以上の休養を挟むことで、最大FDP自体を長くするという「分割飛行勤務」に関する規則は大きく改善され、事前にスケジュールされていなくても利用できるようになったり、予測外の状況に関する「UOC」への言及についても記載されたことで、会社にとってはスケジュール管理面で選択肢が増えた形になったと言えます。
- 分割飛行勤務には、次のようなルールがあります。
分割飛行勤務に関するルール
- 休養は必ず適切な宿泊施設で行われること。
- 宿泊施設までの移動時間はこの休養に含まれない。
- 休養実施時間帯は、現地時間ではなく時刻帯順応を加味した時刻を使用。
- 休養は必ず60分以上 (旧規則では4時間以上だった)
- 下記の45分を休養時間から引いて考えること。
- 夜間終了勤務時間で分割飛行勤務を利用する場合、連続3日まで使用可能 (新規則により追加)
- 分割飛行勤務を利用して飛行勤務時間FDPが延長された場合でも、その後の飛行勤務までの間の休養時間に追加規定はないため、通常の時間が適用。
45分間の減算考慮 700.50(2)
45分の内訳
- 就寝準備 (getting ready for bed)
- 睡眠に入るまで (fall asleep)
- 起床し惰性的な睡魔を克服し勤務に備えるまで (waking up)
上記の時間は、「休んだことにならない時間」と考えられて、それを最大FDPの時間追加の理由にされてしまうと「乗員 (労働者) が不利益だ」という考えに基づいて制定されています。
したがって、「会社が搭乗員のFDPを延長したい」ことから逆算して休養時間を与えるのが本来の一般的な有り方であることを踏まえれば、「休養時間に45分を加えておく」という考えが必要になってきます。
- 上記を加味して、最大飛行勤務時間(FDP)の延長は、次に示す時間分が認められる。(旧規則ではいずれの場合も一律に休養時間の半分で計算されていた。)
上記の計算を適用しても、最大FDPの上限は18時間 (700.62)
待機クルーの分割飛行勤務に関する制限事項
待機(Reserve)の場合の分割飛行勤務に関するルール
待機勤務時間 (RDP) 中に、分割飛行勤務となり飛行勤務がアサインされた場合 (新規則で追加)
- RDPの延長可能はで休憩後は最大2時間まで
- 休養後は最大2回までの飛行が上限
待機(Reserve)に関する規則
新たなに定義された待機に関する用語
待機可能時間 (RAP: reserve availability period)
待機(Reserve)中の搭乗員が飛行勤務開始できる連続24時間中の期間
待機勤務時間 (RDP: reserve duty period)
待機(Reserve)中の搭乗員が飛行勤務開始できる時間から開始し、FDP飛行勤務時間終了で終了
最大待機勤務時間 (Maximum Reserve Duty Period) 700.70
通常クルーの最大連続待機勤務時間
増強クルーの最大連続待機勤務時間
待機可能時間 (RAP: reserve availability period)
待機可能時間 (RAP) を会社から通知されるタイミングに関する規定 700.70 (1)
会社が待機について知らせる事項
- 待機勤務時間(RAP)の開始時刻
- 待機勤務時間(RAP)の終了時刻
- 待機を行う場所(地名)
搭乗員がRAPを通知される限界時間
- 搭乗員のWOCLがRAPに入らない場合、開始時刻の12時間前まで
- 搭乗員のWOCLがRAPに入る場合、開始時刻の32時間前まで
- RAPの開始時刻がWOCL内にかかるように変更された場合、変更開始時刻の24時間前まで
RAPの開始時刻に関する会社の順守規定 700.70 (2)
RAPの開始時刻に関する会社の順守規定
- RAP開始時刻の変更は、通知した時間の2時間前倒しもしくは4時間後倒しまで
- RAP開始時刻の変更は、連続168時間(7日間)のうち合計8時間まで
- 上記の場合でも、その連続168時間のうち連続2日間FFD(休養)を与えられていれば可能
- RAP開始時刻を0200過ぎに変更した場合、次回RAPまでに連続2日間のFFD(休養)を与えること
RAPの連続時間に関する規定
RAPの連続時間に関する規定
- RAPの連続最大時間は連続14時間、休養時間を連続10時間設けること (合計24時間)
- RAP開始時刻が0200~0559までの間(時刻帯順応を加味)の場合で、かつ搭乗員に連絡されていない場合は、RAPを最大で2時間もしくは0200~0559の間にあたる時間の50%、いずれか短い方の分だけ延長可能
- FDPを終了後に、FDPの休養要件を満足すれば、搭乗員はRAPに復帰することになる
- ただしこの場合でもRAPのスケジュール上の終了時刻は変わらず、最大RDPはもともとスケジュールされていたRAPの開始時刻に基づいて決定される。
FDPを含めた最大時間の制限
- 会社は基本的に、最大待機勤務時間(RDP)もしくは最大飛行勤務時間(FDP)のうちいずれか短い方を越えるアサインを搭乗員に対して行ってはならない。ただし、下記の条件を全て満足すれば超過することができる。
最大RDPもしくは最大FDP(のうち短い方)の超過可能条件 700.70(10)
- FDP開始前の24時間以上前に通知されていること
- 22:30~7:30の間に通知がされていない
- 通知した時間からFDP開始までの間に勤務のアサインがない
勤務開始の遅延 (Delayed Reports) 700.52
遅延を通知されるタイミングによる違い
- 搭乗員が勤務開始のために適切な宿泊施設を出発する前に勤務開始時間の遅延について通知された場合は、飛行勤務時間(FDP)の最大時間は、当初の勤務開始時間もしくは遅延を加味した時間のいずれか短くなる方で計算される。
FDPの延長に関する規定
- 最大飛行勤務時間は、別の飛行経路やペアリングの変更がされたとしても開始時刻の遅延という理由では延長できない。
遅延後のFDP開始タイミング
勤務開始時刻が遅延する時間数によって、次のように開始時刻は解釈される。
遅延時間数と開始時刻の関係
10時間以上の遅延を休養時間に振り替える条件
- 適切な宿泊施設を出発前に遅延について通知されていること
- 相互合意時間まで会社は搭乗員の休養を遮らないこと
- 会社が勤務開始の遅延に関するCARs700.52のその他の規定を遵守していること
搭乗員への連絡
- 航空会社は、10時間以上の遅延が生じて休養中の搭乗員に基本的に連絡してはならないが、会社が選択した次のいずれかの場合であれば連絡は可能。
遅延により振り替え休養中の搭乗員に会社が連絡できる条件
- 搭乗員が適切な宿泊施設におり、
予定上の宿泊施設出発時刻の30分以内であれば可能
- 当初の出勤開始時刻の60分以内は連絡可能
- 電話は休養を積極的に遮るものと考えられるが、テキストやeメールなどのメッセージ送信は積極的でないものと解釈され、いつでも可能
- そのため搭乗員は、就寝時は携帯電話をサイレントモードにして休養すべき
- 本拠地と本拠地外での搭乗員への連絡に関する区別は、規則での規定はなし
参照リンク
関連
バンクーバー在住でカルガリーに本部のある会社に通勤する場合、勤務開始するのは本拠地であり、時刻帯順応の基準点もカルガリーとなる。