カナダの郵便番号であるPostal Codeは、アルファベットと数字が交互に並ぶ6文字、しかも真ん中にスペースを必ず挟む、という不思議な形をしています。一体どんな意味があるのか、どんな法則で決められているのか、不思議に思ったことはありませんか?
カナダのPostal Codeの歴史
こういうのを書くときは必ず歴史に触れたくなります。
カナダの郵便番号制度のはじまりと発展
カナダで最初の郵便番号が誕生したのは、1925年のトロントです。最初は数字1文字でした。1943年からトロントは、地域を14のゾーンに分割して郵便配達の効率化を目指します。割り当てられた番号は、数字の「1~15」で、なぜか欠番も番号の重複もあったそうです。この頃からモントリオールでも使用が開始されます。
バンクーバーなど、カナダ国内の他の地域でも郵便番号制度を導入し始めたのは1960年代初めのことです。1960年代中頃になると、番号は3文字まで増えていきます。
この1960年代~1970年代にかけてのこの時代は、郵便配達の業務量が急増します。こうした背景から、郵便配達の効率化を目指したカナダ郵便は、特に難しい作業とされる仕分け業務において、機械化による処理を目指していきます。
1969年に当時の郵政大臣が、郵便番号を6文字にすると表明し、ようやく現在の姿が出来上がります。
郵便番号制度への反対の動き
華々しい発展の歴史というだけではありません。この機械化は、カナダの郵便網の発展に大きく貢献しました。しかし、それまで職人技で仕分けられていた作業が減ったのですから、作業に尽力してきた郵便局員たちが黙っていませんでした。ついには、郵便局員の労働組合による労働争議に発展します。当然、機械の導入コストの方が人為的作業コストよりも安くなり、組合はこの機械化に断固反対します。
1975年4月20日、組合はこの日を「郵便番号ボイコットデー」にすると表明し、週40時間の労働から週30時間への減少を要求しました。1976年に終了するまでこのボイコットは続き、欧米諸国での郵便発展について、カナダは特に他の国に遅れを取ることになりました。
現在の郵便業務
現在郵政業務を行うCanada Postは、かつてRoyal Mail Canadaという政府機関でしたが、1960年代に公社化しました。
カナダポストによると、現在登録されている住所は国内で1600万以上、郵便窓口は全国に6500ヵ所にあり、郵便業務の件数は年間でなんと90億件近くにのぼるそうです。
郵便局や郵便ポストは、日本ほど数は多くはありませんが、各地で見かけます。ポストは落書きが多いため、対策としてこんな派手なデザインにされてしまいました。モノグラムされている文字をよく読んでみると、なんとすべてどこかの郵便番号です。郵便局らしい、アイデンティの塊ともいえるデザインですね。
ポストの形状は、雪が降っても上に積もりにくい様に傾斜がつけられているのも日本と違って面白いです。
郵便番号の意味
では、本題の郵便番号の意味について触れていきます。
番号の構造
アルファベットから始まり数字と交互に並ぶ、スペースも真ん中に含むこの奇妙な6桁の番号は、イギリスやオランダのタイプに似ています。イギリスの郵便番号は、5~7文字で英語と数字が1文字か2文字ずつ交互に並び、真ん中にスペースが入ります。(例:「AB1C 2DE」)オランダの郵便番号は、数字4桁の後にスペースが入り、その後に英語2文字が来ます。(例:「1234 AB」)
カナダの場合は、アルファベットと数字が必ず1文字ずつ交互に並ぶという点で、特徴的と言えます。スペースで仕切られているのもしっかり意味があり、初めの3桁が「分類地域」、後ろの3桁が「地域配達部」を示しているからなのです。
前半の3桁
最初の3桁は「Forward Sortation Area」通称「FSA」を意味し、日本語では「分類地域」というような地理的な区分けのイメージです。
最初の1文字目は州を示します。
Wikipediaでまとめられている図が分かりやすいのですが、東側から順に、Aから並べられていきますが、いくつかの欠番もあります。D、F、I、O、Q、U、W、Zは、どの州にも割り当てられていません。一方で、Quebec州では3つ、Ontario州では5つも割り当てを持っており、Nunavut準州とNorthwest Territories準州では共有でXを使用しています。この2つの準州は1999年に分離するまで1つの州でしたから、いまでもこれだけは共有をしているのです。
そして2文字目の数字は、州の中の都市名を分類するだけでなく、0かそれ以外かで「地方地域」か「都市部地域」かを分類しています。
3文字目のアルファベットで、特定の田舎地域、中規模の都市全体、大都市の一部などと更に細部に分類されていきます。ここでも上記で触れたD、F、I、…のアルファベットは登場しません。理由は、DやOやQは0に、Iは1に、FはEに、UはVに混同しやすいためです。WとZは単純に州の割り当てに登場しないだけで、3文字目以降には登場します。
後半の3桁
後半の3桁は、「Local Delivery Unit」通称「LDU」と呼ばれ、「地域配達部」といった意味合いです。ここまでで、かなり特定されたブロックまで分割されます。
都市部の場合は、通りごとに区画された2ブロック分が割り当てられるケースが多いのですが、地方の場合は、前半3桁のFSAと同じ役割で、さらに地域を分類していきます。ですので、この後半3桁のLDUは、都市部と地方とで異なった役割をしていると言えます。
その他、9Z9が料金後納のビジネス用返信メール専用、9Z0は大きな地域の分配センター用と特別に割り当てられているほかは、地名はアルファベット順に並べられているケースも多いです。
例に出しているバンクーバーのダウンタウン、ハーバーのウォーターフロントにそびえるカナダ・プレイスの郵便番号に近い番号の「V6C 3T1」「V6C 3T2」などを調べてみると、近い地域にまとまってはいますが、番号順にしっかり並んでいるという訳でもありません。
現在の使用数と変更
他の数字や文字との混同を回避するために使用していないアルファベットを考慮すると、前半3文字のFSAは理論上、3600個存在し、後半3文字のLDUはさらにそれぞれの2000個ができる計算になります。掛け合わせて合計すると、理論的には720万通りの郵便番号ができることになりますが、実際に使用されているのは2019年10月現在で約88万程度と言われ、1割ほどしか使用されていない計算になります。
上述したとおり、都市部と地方部という分類をしている以上、もし地方部が発展して人口増加を伴った場合にはどうなるのか、そう、都市化に伴って郵便番号の変更という事態もあり得るのです。実際には2008年のQuebec州でこの状況が発生しました。その場合は、近隣の都市が使用している番号に吸収されたり、すでに使われなくなった番号が割り当てられたりしています。
EではじまるNew Brunswick州では、完全なる「都市化」が完了したため、Eのあとに0が来る地域は消滅しました。
特別な郵便番号の使用法
サンタクロースの住所
あるクリスマスシーズンの郵便局で、子どもたちがサンタクロース宛てに送った大量の手紙が、どうしようもなく不達になっているという事実に気づいた局員がいました。1974年のことです。子どもたちの期待に応えるべく、局員たちは有志を募り手紙を送り返すようにしましたが、サンタから返事が来る!という噂は瞬く間に広がり、その数は年々増え続けていきます。
後の1983年にこの活動は、カナダポストの正式なプログラムになり、先日のクリスマスにも恒例行事として行われました。これまでになんと、1万人以上が支援しており、その参加者の大半は、その重要性を最もよく理解していて、なおかつ郵便業務への責任感がある現役もしくは引退した郵便局員の方々だそうです。彼らの手紙の返信作業は、なんとクリスマスシーズンになると一日平均21時間にも及ぶと言われています。
これまでに出された手紙はおよそ100万通にものぼり、国内だけでなく外国から寄せられるものも多く、日本語で書かれていれば、日本語で返信するという気合いの入れようで、スタッフたちは子どもたちの夢に真摯に応えていきました。
そこでサンタの住所として誕生したのが、郵便番号「H0H 0H0」です。1文字目の「H」はモントリオール指定ですが、その次に続く「0」は地方部に割り当てられる数字ですので、偶然にもこの矛盾した事実のお陰で、重複することなく使用することができたのです。
ほっほっほ~
商業的な利用
カナダポストもあくまで一企業であり、より便利なサービスを提供することで、システム利用を促進しています。利用数でみると、その大半は企業による商業利用になります。カナダポストは「Postal Code Targeting」という、より効率的にダイレクトメールを送るサービスを2017年に開始しました。
このサービスに登録して利用すると、各企業は郵便番号を書くだけで、カナダポストがその地域にDMを配達してくれるというのです。しかもコストは一通あたり$0.3と非常に安い。
企業からすれば、ターゲットにしたいのは、すでに自社のサービスを利用している同じような顧客層になります。同じ地域に住み、そして同じような生活をする顧客は、次のターゲットになる可能性が高いわけです。企業は、既に保有している顧客データを参照しながら、よりピンポイントに次のターゲットへのマーケティングを行っていけるようになっています。
果たして、郵便番号を使うだけでどれくらいのターゲットに絞ることができるのでしょうか?
顧客数は最初の3桁のFSAだけでも、平均9000世帯に絞られると言います。さらに、後半3桁のLDUまでいくと、なんと平均20世帯まで限定されます。
僕がカナダに住んで思うのは、やはり近い感覚の人々が集まってコミュニティを形成しているということです。街によって、住んでいる人たちの人種や経済感覚、生活スタイルは似たようになっている印象です。そう考えるだけでも、このシステムはあながち的を外したものではないことが分かります。ターゲットとしてDMを送られる側からすればちょっと迷惑な話かもしれませんが。
BC州のPostal Code
Wikipediaで詳述されています。
かなり分類されていて、全体で見るとものすごい数になりますので、ここでは「人口の最も多い地域」と「少ない地域」のFSA別ランキングを抜粋します。
最も人口の多い地域
第1位 V3S(Surrey-Upper East):89,630人
第2位 V3W(Surrey-Upper West):81,101人
第3位 V0N(North Vancouver Island, Sunshine Coast, Sea-to-Sky Country and Southern Gulf Islands):79,627人
第4位 V0E(High Country, Shuswap and Northeast Okanagan):64,993人
第5位 V0R(Central and South Vancouver Island):60,717人
3位以降は地方の連合地域になりますが、それを差し置いて1位、2位になるSurreyは恐るべし。
最も人口の少ない地域
第1位 V7X(Vancouver-Bentall Centre):5人
第2位 V7Y(Vancoucer-Pacific Centre):5人
第3位 V4G(Delta-East Central):142人
第4位 V0W(Atlin Region):461人
第5位 V7B(Richmond-Sea Island YVR):769人
上位に入るビル名やYVRは商業ビルですのでちょっと例外的ですが、ここにも住所をもっている人がいるんですね。4位のAtlin地区は先住民族トリンギット族の居住地域です。
最後に・・・
日本人の僕たちにちょっと親しみの在りそうな語呂合わせの郵便番号を個人的ランキングで紹介します。
名前編
第1位 田中(T4N 4K4)アルバータ州レッドディア(RED DEER AB)
第2位 佐々木(S4S 4K1)サスカチュワン州レジャイナ(REGINA SK)
第3位 典子(N0R 1K0)オンタリオ州メイドストン(MAIDSTONE ON)
第4位 聡(S4T 0S1)サスカチュワン州レジャイナ(REGINA SK)
第5位 孝次郎(K0J 1R0)オンタリオ州デュ リーヴィエ(DEUX RIVIÈRES)
僕の電話帳から登場していただいた皆さん、すみません。
食べ物編
第1位 握り(N1G 1R1)オンタリア州グウェルフ(GUELPH ON)
第2位 刺身(S4S 1M1)サスカチュワン州レジャイナ(REGINA SK)
第3位 とろろ(T0L 0L0)アルバータ州ブラント(BRANT AB)
第4位 ひじき(H1J 1K1)ケベック州アンジュ(ANJOU QC)
第5位 バナナ(B4N 4N4)ノバスコシア州ニューミナス(NEW MINAS NS)
こちらは僕が食べたい順。